映画評「PAPIROSNITSA OT MOSSELPROMA」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]ソ連 [英語題]THE CIGARETTE GIRL OF MOSSELPROM [製作]メジラブポム=ルース

[監督・撮影]ユーリー・ジェリャプジスキー [脚本]アレクセイ・ファイコ、フョードル・オツェプ

[出演]ユーリア・ソーンツェワ、イゴール・イリンスキー

 モスクワの路上でタバコ売りをするジーナ。彼女に惚れた中年のサラリーマンは、告白しようと考えている。一方、映画のカメラマンはジーナにスター性を見い出して女優としてデビューさせ、プライベートでも2人は恋人同士となる。さらには、アメリカ人の実業家もジーナに惚れ・・・。

 当時のソ連映画というと、セルゲイ・エイゼンシュテインの革新的な作品などが思い浮かぶだろう。だが、もちろん娯楽映画も作られていた。この作品は、革命後にソ連になった後に初めて作られた、現代を扱ったコメディと言われている。

 帽子を被ってタバコを売るジーナは可愛らしい。3人の男が惚れるのも納得だ。だが、帽子を取った姿は、髪型のせいか、顔がはっきり見えるからか、帽子を被った姿よりも年を取ってみえてしまう。これは個人的な趣味からも知れないが、何が言いたいかというと、当時のソ連の映画にも女優の容姿を売りとした作品が存在していたということだ。ちなみに、ジーナを演じたユーリア・ソーンツェワは、同年に製作されたSF「アエリータ」(1924)の主演も務めている。

 コメディとしては、イゴール・イリンスキー演じる中年のサラリーマンがかなりの部分を負っている。あわて者で、思い込みが激しいキャラクターを、イリンスキーは大げさな演技でみせる。イリンスキーによって、この作品がコメディであることが決定づけられている。

 イリンスキーの演技以外は、コメディというよりもロマンスの要素が強い。そして、ロマンスの部分は正直平凡に感じた。「といった映画が最終的にできました」と入れ子構造になるラストは、ロマンスとはそぐわない。このラストは、コメディならではの観客と映画の距離感を演出しようとしているが、中途半端で決して成功していない。

 当時のモスクワを舞台にしている点は、一見の価値がある。だだっ広い道路には、人間と馬車の姿はまばらで、自動車はまだほとんど見当たらない。後景には、ロシア帝国時代に建設された巨大な宮殿が見える。おそらく当時のソ連人にとっては当たり前過ぎて、逆にドキュメンタリーでは取り上げられないような何気ないモスクワの光景。劇映画だからこそ捉えられた光景なのかもしれない。

 この映画は、コメディとしては決して成功していないと思う。だが、当時のソ連映画を知るには大事な一本かもしれない。ソ連人は革命ばかりしていたわけじゃない。美しい女性がいたら、讃えずにはいられなかったのだ。