映画評「イエスタ・ベルリングの伝説」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]スウェーデン [原題]GOSTA BERLING SAGA [英語題]THE ATONEMENT OF GOSTA BERLING [製作]スヴェンスカ・フィルムインダストリ

[監督・脚本]モーリッツ・スティルレル [原作]セルマ・ラーゲルレーヴ [脚本]ラグナール・ヒルテン=カヴァリウス [撮影]ユリウス・イェンソン [美術]ビルヘルム・ブリーデ

[出演]ラース・ハンソン、グレタ・ガルボ

 酒飲みのため牧師の職を解かれたイエスタ・ベルリングは、家庭教師として教える教え子や、上流階級の女性、イタリアからやって来た女性エリザベートなどに愛されては、別れる。

 庶民出身だがその美しい容貌から上流階級の女性たちに愛されるというイエスタ・ベルリングという男性を軸にして、彼に恋をする女性やその他の上流階級の人々の過去・現在の様々なドラマが展開されていく。

 元々の作品は3時間あり、2部に分けて上映されたらしいが、私が見たのは90分の短縮版である(アメリカでは180分強の完全版のDVDが発売されている)。完全版のDVDを見た人の評を読むと、90分の短縮版は語るに値しないようだ。

 その語るに値しないという短縮版は、複雑に入り組んだ人間ドラマが十分に描かれているとは思えない。登場人物が多く、複雑に絡み合うストーリーに対して90分は短すぎるように感じられた。ストーリーを追うことに汲々としていて、庶民出身のイエスタと上流階級の女性たちというドラマになりそうな素材も決して豊穣にはなっていない。

 そんな「イエスタ・ベルリングの伝説」を、ビデオで発売されている理由は、ひとえにグレタ・ガルボにある。この後、ハリウッドで伝説となるガルボが、「イエスタ・ベルリングの伝説」の中でイエスタ・ベルリングを愛してしまう女性の1人であるエリザベートを演じている。

 あくまでもグレタ・ガルボは脇役である。それでも、「イエスタ・ベルリングの伝説」の中のガルボは魅力を放っている。男らしい一面があれば、女らしい一面がある。強気な一面があれば、弱気な一面もある。かっこいいかと思えば、情けなくもある。「イエスタ・ベルリングの伝説」のグレタ・ガルボは、相反する感情を持った複雑なキャラクターをさりげない演技でさらっと演じてみせる。

 象徴的なシーンは、イエスタがガルボ演じるエリザベートを馬そりに乗せて走るシーンだ。ここで、エリザベートはこのままイエスタに連れ去って欲しいという思いと、夫の元に帰らなければという義務感の狭間で苦悩する。感情に流されそうな一面と、それを理性で押さえつけようという一面の両面が1つのシーンで見え隠れする。

 監督は、この後ガルボと一緒にハリウッドへ渡る(そしてガルボだけが伝説になる)、モーリッツ・スティルレルが担当している。当時、隆盛を誇っていたスウェーデン映画界において、ヴィクトル・シェーストレームと並ぶ監督と称されているスティルレルの映画の中で、現在日本で簡単に見られる作品は少ない。「イエスタ・ベルリングの伝説」は、VHSソフトで見ることができると言う意味で、数少ない作品の1つだが、正直言って「イエスタ・ベルリングの伝説」の短縮版だけを見ても、スティルレルの実力の程はよくわからない。

 「イエスタ・ベルリングの伝説」の短縮版は、スティルレルの実力はわからないが、ガルボの実力と魅力が十分に伝わってくる作品だ。