「メリー・ウィドー」 シュトロハイムに監督をさせろ!

 ジョン・ギルバートが出演した「メリー・ウィドー」(1925)は、フランツ・レハールの同名オペレッタの映画化作であり、「グリード」(1924)の埋め合わせのためにMGMがシュトロハイムに撮らせた作品である。シュトロハイムは利益の25%を受け取れる契約だったが、「グリード」の赤字補填に消えたとして1%しかもらえなかったという。

 シュトロハイムはスターを使うことを拒んだが、スターのジョン・ギルバートとメイ・マーレイが出演した。

 「メリー・ウィドー」の撮影において、次のような出来事があったのだという。

 撮影中、メイ・マーレイがシュトロハイムに不満を持ち、メイヤーに直談判をした。メイヤーはシュトロハイムをクビにするが、エキストラたちが抗議した。困ったメイヤーはシュトロハイムに再び監督するように依頼して、クビは撤回された。そして、エキストラたちは黄金のシガレットケースをシュトロハイムにプレゼントした。呪われた監督として知られるシュトロハイムは、このシガレットケースで、いくらか救われただろうか?

 ちなみに、「メリー・ウィドー」に対して、モンテネグロの王子が、主人公は自分をモデルにしており、名誉を傷つけていると訴えた。王子は賠償金を得るが、要求した映画の破棄は得られなかったうえに、この出来事はMGMにとってはいい宣伝になった。

 「メリー・ウィドー」に対しては、ジョルジュ・サドゥールが次のように評している。

「この『メリー・ウィドー』は、『グリード』同様、ある激しい怒りに支配されていた。つまり、ハプスブルグ家の二重の王政とオーストリア貴族に対する怒りであり、この映画がその演出と同じように脚本の中で風刺しているハリウッドに対する怒りであり、このようにくだらない作品を彼らのために作るようシュトロハイムに強制したサルバーグやメイヤーに対する怒りであり、メイ・マーレイのような愚かで思い上がったスターに対する怒りであり、最後には、全能のお金とお金が人間を使役することに対する怒りである」

無声映画芸術の成熟―トーキーの跫音1919‐1929 (世界映画全史)

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