「オペラの怪人」ロン・チェイニーとトッド・ブラウニング

 「オペラの怪人」(1925)は、当時ハリウッドで最もホラー映画に力を入れていたユニヴァーサルによって製作された作品である。フランスの作家ガストン・ルルーの代表作を映画化した作品だ。「千の顔を持つ男」という異名を持ち、メイク・アップに凝って多くのホラー映画に出演したロン・チェイニーが主演。マスクを外して、骸骨に薄い皮をつけたような顔が現れる場面が秀逸だった。

 そのチェイニーは、当時よくコンビを組んでいたトッド・ブラウニング監督の「三人」(1925)にも出演し、大ヒットとなっている。ちなみにブラウニングは、アルコールにおぼれて「ノートルダムのせむし男」(1923)の監督を降ろされた上、ユニヴァーサルを解雇されていたところを、アーヴィング・サルバーグに救いの手を差し伸べられて、MGMに移籍していた。

 「三人」は、三人組のカーニバル芸人が自分たちを受け入れない世間を恨み、犯罪をおこすという内容で、小人、腹話術師、力自慢の3人が力を合わせて犯罪の天才となるというもの。小人が少女を殺すシーンも撮影されたが、ショッキングすぎるとカットされた。赤ん坊のように見える小人や、老婆の格好をする腹話術師など、映画にするとコメディになりそうな内容だが、チェイニーの力と「フリークス」(1932)にも出演する小人役者ハリー・アールズの演技が映画にリアリティを与えたと言われる。

 ブラウニングは、この後マイノリティたちを描いた作品を監督していく。その点について、柳下毅一郎は「興行師たちの映画史」の中で、次のように書いている。「ブラウニングにインスピレーションを与えたのはやはり小人の鬱屈だろう」「以後、ブラウニングは社会のはぐれものたちの鬱屈と哀しみを描く傑作を連発することになる」

 この後、ブラウニングとチェイニーのコンビは、10本の作品を残すことになる。ほとんどがエキゾチックな外国を舞台にしているか、身体障害をテーマにしている。ブラウニングはチェイニーに演じさせるキャラクターを考え、そこからプロットを生み出したとも言われる。一方で、2人は仕事上は密接だったが、個人的なつきあいはなかったという。

興行師たちの映画史 エクスプロイテーション・フィルム全史

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