映画評「ロイドの人気者」
※ネタバレが含まれている場合があります
[製作国]アメリカ [原題]THE FRESHMAN [製作]ハロルド・ロイド・コーポレーション [配給]パテ・エクスチェンジ
[監督・脚本]サム・テイラー [監督]フレッド・C・ニューメイヤー [製作]ハロルド・ロイド [原作]アーサー・ロス [脚本]ジョン・グレイ、テッド・ワイルド、ティム・ウィーラン [撮影]ウォルター・ランディン [編集]アレン・マクニール [美術]リール・K・ヴェダー
[出演]ハロルド・ロイド、ジョビナ・ラルストン、ブルックス・ベネディクト
大学に入学したハロルドは、人気者になろうと努力するが影で笑われている。そのことを知ったハロルドは落ち込むが、ハロルドに恋するペギーの励ましもあって、フットボールのゲームで活躍して見返してやろうとする。
これまでのロイドの長篇コメディは、細かいギャグを積み重ねてテンポを徐々に速めていき、後半は一気にギャグの洪水を見せるというパターンが多かった。「ロイドの人気者」は、これまでの作品よりもギャグではなく、ストーリー自体の力によって盛り上げているように感じられる。
仮縫いのタキシードでパーティに出て、途中で仕立て屋に縫ってもらいながら踊るといったギャグはもちろんある。だが、それ以上にストーリーの構成に注意が払われているように感じられるのだ。それまでは、短編コメディを組み合わせたような印象も受けたが、「人気者」は起承転結の一連の流れの上に成り立っている。
その証拠に、この作品のロイドには哀愁が感じられる。それは、1つのシーンだけで生み出されるものではない。ハロルドは大学で人気者になろうと決意し、そのためのあいさつをするときに、映画で見たステップを真似してみせる。また、ひょんなことから、みんなのために金を使うというイメージを持たれ、そのイメージを守るためにも散財を繰り返す(学生たちは金のためにハロルドの元に集まるが、本人はそのことに気づいていない)。そんなハロルドを本当に想っているのは、ペギーという1人の女性だけである。
このような積み重ねの後、自分がみんなに馬鹿にされていることをハロルドが知るシーンは痛切だ。同じ年に公開されたチャールズ・チャップリンの「黄金狂時代」(1925)は、ロールパンのダンスという最高に楽しいシーンが、夢に過ぎなかったという点で痛切さを増しているが、「人気者」の痛切はそれまでのストーリーの積み重ねが痛切さを増している。フットボールの練習の後、タックルの練習相手としか見られていないにも関わらず、「いい汗かいたね」と語るハロルドを笑顔などの積み重ねが。
「人気者」はハロルド・ロイドの作品のなかでも人気の高い作品だ。ストーリーの構成が良くできていると思うし、ラストにはフットボールの試合というハイライトもしっかりとあり、ペギーから「愛している」という手紙をもらったハロルドが笑顔で壁に寄りかかると、シャワーのスイッチが壁にあり、濡れてしまうというラストの落ちもいい。
1925年は、チャップリンの「黄金狂時代」といい、ロイドの「人気者」といい、サイレント・コメディが変わっていく節目の年と言えるかもしれない。チャップリンもロイドも、それぞれの個性を伸ばしながら、単なるスラップスティックからの脱却を図り、見事に成功している。ただ、そんな成熟していく彼らの姿が、それはそれで寂しい感じもしてしまうのは、わがままというものなのだろう。
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