映画評「極楽突進」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ  [原題]PATHS TO PARADISE  [製作・配給] パラマウント・ピクチャーズ

[監督]クラレンス・G・バッジャー  [原作]ポール・アームストロング  [脚本]キーン・トンプソン  [撮影]H・キンレイ・マーティン

[出演]ベティ・コンプソン、レイモンド・グリフィス、トム・サンチ、バート・ウッドラフ、フレッド・ケルシー

 チャイナタウンで観光客相手に店を開くモリー。仲間と共に、トラブルが発生する狂言で来店者から金を巻き上げていた。そこにやって来た気の弱そうな男をいつもの通りハメようとしたが、男は警官を名乗り、賄賂を巻き上げて去っていった。だが、男が持っていた警官バッジはガス・メーター調査員のもので、男は詐欺師だった。その後、巨大なダイヤモンドを持つ老人に近づくモリーは、自分をハメた男も老人に近づいているのを見る。

 サイレント映画には稀な見事なコン・ゲームを冒頭で見せてくれる。こうしたオープニングを見せられると、否が応にも期待が高まるというものだ。あまりにも良い男の手際はホレボレするほどだし、その後の「誰かの名前が呼ばれた時には必ず返事をする」というちょっとした行動も、一筋縄ではいかない詐欺師としての実力を感じさせる。ダイヤモンドの所持者である気のいい老人ではなくとも、男に魅了されるのはいたし方ないと思わせる。

 ダイヤモンドを巡って、男、モリー、警官、老人が入り混じり、騙し合う老人の屋敷のシーンでも、展開の面白さに加えて、警官が犬と格闘しながら懐中電灯を振り回すと盗んだ金庫を持った男を照らし出し、どんなに逃げようとしても照らし出されるというギャグなど、随所に楽しませてくれる。ちなみに、懐中電灯のシーンは、チャールズ・チャップリンの「黄金狂時代」(1925)にも、懐中電灯をライフルに変えたギャグがある。

 チャーリー・チェイスを男前にしたような(チェイスも十分男前だとは思うが)レイモンド・グリフィス演じる男がいい。常に余裕を失わず、物腰柔らかな様子は魅力的だ。ベティ・コンプソン演じるモリーとの相性も良く、詐欺のプロ同士の化かし合いの中に、プロ同士の敬意を感じさせる。

 終盤のカーチェイスは少し長く感じられたが、今までに見たことがないくらい動員されたバイクは圧巻だった。

 ちなみに、私が見たバージョンは、途中で切れているらしい。警官の追跡を振りきってメキシコ国境を渡った男とモリーだったが、モリーの良心が沸き立ち、ダイヤモンドを返しに行くというのが本来の終わりのようだ。冒頭で警官に化けた男に「まともになれ」とモリーが諭される情感のこもったシーンが、映画の終わりに展開されたと考えると、私が見たバージョンを遥かに超える余韻を持った終わりの作品なのかもしれない。

 タイトルも監督も俳優も今では忘れられている。だが、「極楽突進」は間違いなく一級の娯楽作だ。レイモンド・グリフィスの他の作品をもっともっと見たくなる。コメディの魅力が、スラップスティック一辺倒からシチュエーションや演出が加わっていったこの時期。「極楽突進」にも見事なシチュエーション、構成がある。そして、同じようにコメディの変化に貢献した人物の1人であるチャーリー・チェイスとレイモンド・グリフィスが、非常に似た顔をしていることも面白い。大げさな格好やメイクなど見た目に特徴がなくとも、動きが派手ではなくても、コメディは成立するのだ。