映画評「曠原の志士」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ  [原題] TUMBLEWEEDS  [製作]ウィリアム・S・ハート・プロダクションズ  [配給]ユナイテッド・アーティスツ

[監督]キング・バゴット [監督・製作]ウィリアム・S・ハート [原作]ハル・G・エヴァーツ [脚本]C・ガードナー・サリヴァン [撮影]ジョセフ・H・オーガスト

[出演]ウィリアム・S・ハート、バーバラ・ベッドフォード、ルシアン・リトルフィールド、J・ゴードン・ラッセル、リチャード・R・ニール

 1889年のアメリカ、オクラホマ州。早い者勝ちで入植者たちが土地を手に入れることができる「ランドラッシュ」が開催されることになった。カーヴァーが住んでいた土地も政府に接収されて、ランドラッシュの対象に。ランドラッシュに参加しないつもりだったカーヴァーだったが、美しいモリーと出会い、彼女と住む場所を得るためにエントリーすることにする。

 1910年代から西部劇スタートして活躍したウィリアム・S・ハートの最後の出演作である。私が見たのは1939年に再公開されたバージョンで、映画の前に70歳を超えたハートが作品の思い出を語る映像がついていた。好々爺のように表情が柔らかくなったハートが、かつて演じたように西部の男のスタイルで語る映像は、それだけで貴重だし、感慨深いものがある。

 内容もハートの最後の作品にふさわしい。改心して良い人間になる「グッド・バッド・マン」と呼ばれたキャラクターを得意としたハートだが、「曠原の志士」では徹頭徹尾いい人に徹している。冒頭では、子どもに意地悪な男ノルを懲らしめる。年齢的には娘より年下でも成立する美しいモリーに一目惚れしてしまい、メロメロになる。後半では、人生の終の棲家を探しにランドラッシュに参加した老夫婦が、ノルとビルに土地を奪われそうになっているのを見て猛然と助ける。

 根無し草だったカーヴァーは、モリーという女性に出会い、土地に落ち着くことを決心する。それは、長年映画製作という旅を続けてきたが、「曠原の志士」でカメラの前から姿を消す決心と共通する。当時ハートの人気は下がり、快活な魅力を持ったトム・ミックスらに西部劇のトップスターの座は譲っていた。「曠原の志士」のハートはすでに60歳を超えていたのだ。

 最後の作品にふさわしいのは内容だけではない。「曠原の志士」は、映画製作者としてのハートの実力が限界に達していないことを証明しているのだ。世界の歴史を見ても特異な出来事である「ランドラッシュ」という題材に目をつけた選択眼、疾走する馬車や馬のスペクタクル、弱いものに優しく悪いものを許さないハート演じるカーヴァーのキャラクター、そのどれもが魅力的だ。しかし、一方で、演じるハートが、若い女性に一目惚れするウブな男を演じるには年を重ねてしまっていることも確かだ。

 「曠原の志士」は、かつてのハートの作品のような「グッド・バッド・マン」の形式美の魅力はない。だが、「西部劇」としての魅力に満ちている。そんな作品を最後に、余力を残しながらも去っていったウィリアム・S・ハートという映画人が見せてくれた最後の作品が、魅力ある作品であることは、映画史に残る幸せな出来事の1つと言えるだろう。