映画評「百鬼乱暴」

[製作国]アメリカ  [原題]THE PERFECT CLOWN  [製作・配給]チャドウィック・ピクチャーズ・コーポレーション

[監督]フレッド・C・ニューメイヤー  [脚本]トマス・J・クライザー  [撮影]ジョージ・ベイカー、ニコラス・T・バロウズ

[出演]ラリー・シーモン、ケイト・プライス、ドロシー・ドゥワン、ジョーン・メレディス、オーティス・ハーラン

 会社から預かった千ドルを、翌朝まで自分で持っていなければならなくなったラリー。だが、脱獄囚と警官の追っかけっこに巻き込まれるなど、散々な目に遭う。サイレント時代のコメディアンとして人気を得ていたラリー・シーモンは、この頃中編・長編に乗り出していた。この作品も1時間弱の中編である。

 スラップスティック色は強くなく、囚人服の上にコートを着ることになったラリーたちが、警官と遭遇するといったシチュエーションに重きが置かれている。

 バスター・キートンハロルド・ロイドといった短編コメディを生み出したコメディアンたちは、中編・長編に乗り出していた。短編と異なりメリハリが必要になる中編・長編では、徐々に加速がついていくテンポなど工夫が重要となり、キートンやロイドは見事な構成の作品を多く生み出していた。

 そんな中、「百鬼乱暴」には個別の面白さはあるものの、作品全体としては短編の連続といった印象で、工夫を感じられなかったのが残念。シーモンは1928年に39歳の若さで死去してしまうため、挑戦は途中で終わってしまうが、シーモンが現在に名を残せなかった理由の1つは、長編時代に乗れなかったことにあるだろう。