映画評「ヴァリエテ」

※ネタバレが含まれている場合があります

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[製作国]ドイツ  [原題]VARIETE  [英語題]VARIETY  [製作・配給]ウーファ

[監督・脚本]E・A・デュポン  [製作]エーリッヒ・ポマー  [原作]フリードリッヒ・ホレンダー  [撮影]カール・フロイントカール・ホフマン  [美術]ロベルト・ヘルルト、ワルター・レーリッヒ

[出演]エミール・ヤニングス、マリー・デルシャフト、リア・デ・プッティ

 妻のベルサと共に、空中ぶらんこを商売にしているフラー。2人の元に、世界的に有名な曲芸師のアルティネッリがコンビを組もうと持ちかけてくる。3人は成功して名声を得るも、アルティネッリがベルサを誘惑したことから、悲劇へと向かう。

 ドイツ・サイレント期を代表する作品の1つ言われ、この作品の成功でリア・デ・プッティはアメリカへと招かれることになる。以前から高名な役者だったヤニングスも名声をさらに高めている。また、カール・フロイントによる撮影の美しさも評判を呼んだ。残念ながら、日本で発売されているソフトに収録されているのは、前半のプロローグがカットされた短縮版である。アメリカで公開された時のバージョンを元にしていると思われる。

 サーカスの曲芸師という、非日常的な仕事をしている人々を主人公に据えることで、観客の興味を引こうという意思が感じられる。空中ぶらんこ以外の出し物や他の団員たちの様子も多少見ることができるが、あくまでも場つなぎや雰囲気の描写の域を出ていない。空中ぶらんこを芸としている中心となる3人は、見た目も行動も特別なところはなく、3人の嫉妬のドラマもまた、通常の恋愛ドラマとあまり変わらない。

 プロローグがカットされていなければ、趣はまた変わっていたかもしれない。プロローグは、しがない曲芸師のフラーの前に若いベルサが現れ、フラーが古女房を捨てるというものだという。中年を迎えて、これからの人生の希望を見出せずにいたフラーが見つけた新しい希望がベルサだったと言えるだろう。曲芸師という職業は、自分の体が動かなくなったら終わりである。そういった曲芸師ならではの悩みも、プロローグには描かれていたかもしれない。もしそうだったとしたら、サーカスという舞台は、より大きな効果を得ることができたことだろう。

 サーカスという設定自体が、どれほど観客の興味を呼ぶかは微妙なところだが、この作品で描かれた空中ぶらんこのシーンは非常に魅力的だ。それは、撮影の力によるところが大きい。揺れるぶらんこに据えつけられたカメラは、ショーそのものではなく、ショーを行う人間たちを描写することに成功している。さらに、ショーそのものを映し出した、少し遠景のショットを組み合わせることで、人間が行っているショーとしての空中ぶらんこが魅力的に捉えられている。バルサとアルティネッリの関係を知ったフラーが、嫉妬を胸に抱きながら空中ぶらんこに臨むシーンの心理的な緊張感は、撮影によるところが大きい。

 アルティネッリをわざと受けとめないで転落死させる幻想を見るフラーの動揺を、下にいる観客たちの多くの目がフラーを見つめているように映し出すことで表現するショットがあるが、これはおまけみたいなものだ。

 空中ぶらんこ以外は、普通のメロドラマ的ではあるものの、その表現方法には魅力的な部分が多々ある。例えば、リア・デ・プッティが演じるベルサのヴァンプ的な魅力、アルティネッリとベルサの遊戯的な恋愛の進展の表現(露骨に愛を語り合ったりはしない)、フラーがアルティネッリを殺害する一連のシーンにおけるフラーの無表情(手を洗ったときの血でフラーは自分のやったことに初めて気づいたかのようだ)などである。

 「ヴァリエテ」は、見事な空中ぶらんこの撮影に加えて、上級のメロドラマの魅力も備えた作品である。だが、プロローグが残っていたら、もっと魅力が増したのではないだろうか。

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