映画評「喜びなき街」
※ネタバレが含まれている場合があります
[製作国]ドイツ [原題]DIE FREUDLOSE GASSE [英語題]THE JOYLESS STREET
[監督]G・W・パプスト [原作]ヒューゴー・ベタウァー [脚本]ウィリー・ハース
[出演]アスタ・ニールセン、グレタ・ガルボ、アグネス・エステルハイジ、ヴェルナー・クラウス、ヘンリー・ステュアート、アイナー・ハンソン、グリゴリ・クマーラ
第一次大戦後のウィーン。貧しい生活を送る庶民であるグレータは、父の破産から夜の女へと身を持ち崩しそうになる。一方、同じく貧しい庶民のマリアは、愛する男性の浮気を知り、浮気相手を殺害してしまう。
グレタ・ガルボ主演作として有名であると共に、リアリズム映画としても有名な作品。オリジナルは約2時間だが、私が見たのは約70分のものだった。公開当時、そのリアリズム描写により、日本も含む各国での公開の際には大幅なカットがされたという。さらに、ガルボが有名になってからの再公開では、本当はガルボとニールセンの2人が主役にもかかわらず、ニールセンの出演部分がカットされたと言われている。
同時代の貧しい人々を描いているという点で、「喜びなき街」はかなり野心的な作品であったといえるだろう。同時期の他の作品を見ても、ソ連のセルゲイ・エイゼンシュテインの「ストライキ」(1925)くらいしか思い当たらない。
パプストは、金持ちと貧しい人々を対照させながら描くという伝統的な手法を取り、わかりやすく描いて見せる。さらに、貧しい人々に行き渡らない肉を牛耳る肉屋の主人(ヴェルナー・クラウス)や、人のいい顔をしながらも、貧しい女性を夜の世界へと導く服屋の女主人グレイファーを、とことんまでいやらしく見えるように演出している。映画全体はリアリズムと言えるが、演技の点では表現主義的と言えるかもしれない。
グレタ・ガルボの美しさは際立っている。私が見たのが、ガルボ中心に編集されなおされたと思われるバージョンであるからともいえるが、それでもスラっとした長身に物憂げな目といったガルボの特徴は光っている。
本当はガルボと二枚看板だったと思われるアニタ・ニールセンは、1910年から映画に出演しているベテランであり、この映画公開時はすでに40歳を超えていた。そのため、正直言ってガルボと比べると美しさの面では圧倒的に負けている。だが、そのふてぶてしさすら感じさせる存在感は、伝説的な俳優の名に恥じないものであるように思える。
同時代の貧しい人々を描いているという点ではリアリズム的だが、ストーリーはメロドラマ的だ。約2時間のオリジナル版では、私が見たバージョンよりも、メロドラマの部分が強調されていない可能性もあるが、確認はできない。
「喜びなき街」は、グレタ・ガルボの魅力を感じ取ることができる作品であるとともに、同時代の貧しい人々を扱っているという点で野心的な作品でもある。中途半端にメロドラマティックな点が残念だが、オリジナル版はまた違った印象だったかもしれないと考えると、パプストを責めるのは筋違いだろう。
ちなみに、この作品にはマレーネ・ディートリッヒが出演しているという話もあるが、それは間違いらしい。肉屋に並ぶ列にディートリッヒに似た女性がいるが、それは違う女優だということだ。
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