映画評「ストライキ」

※ネタバレが含まれている場合があります

ストライキ [DVD]

[製作国]ソ連  [原題]STACHKA  [英語題]STRIKE  [時間]82分

[監督・脚本]セルゲイ・エイゼンシュテイン  [脚本]グリゴリー・アレクサンドロフ、I・クラブチュノフスキー、ワレーリー・プレトニョク  [撮影]エドゥアルド・ティッセ、ワシリー・フワートフ、Vladimir Popov

[出演]グリゴリー・アレクサンドロフ、ミハイル・ゴモロフ、I・イワノフ、アレクサンドル・アントノーフ

 ロシアのとある工場を舞台に、ストライキが起こり、それが鎮圧されるまでの様子を描く。

 モンタージュ論で有名なエイゼンシュタインによる長篇初監督作品である。「戦艦ポチョムキン」(1925)と比較すると知名度の低い作品だが、内容的には労働者を扱っている分、こちらの方が身近な問題に感じられる。

 特定の人物を主人公とすることを避け、主人公を「大衆」とした「ストライキ」は、素人俳優を多く起用している。大衆は映画の大きな要素であり、工場でストライキが始まったときに工場の敷地に溢れる人々の群れ、そしてラストの一面に広がる死体の群れなど、印象的なシーンがいくつもある。民衆の革命とされたロシア革命を賛美する目的もあり、その目的を「ストライキ」は果たしている。

 一方で、資本家や権力者たちの姿は、カリカチュアされて描かれている。でっぷりと太り、贅沢の限りを尽くす資本家たちにもまた、名前はつけられていない。誰が工場主で、誰が政府の官僚かは問題ではない。「憎むべき敵」という象徴化された存在として描かれている。

 カリカチュアは、権力者たちに協力するスパイたち(狐、ふくろうなどのあだ名と、それぞれの動物に似た表情を見せるスパイたちなど)などにも及んでいる。一見、ドキュメンタリー・タッチの作品だが、こうしたカリカチュアが、映画にコメディの要素も与えている。

 「ストライキ」は退屈しない映画だ。その理由は上記に挙げたコメディの要素もある。加えて、スピーディな編集にもよる。1つ1つのカットが短い編集法は、現在の編集法にもつながるものを感じさせる。だが、サイレントであるという現在の映画との最大の違いにより、「ストライキ」では1つ1つのカットの映像そのものに意味を持たせているため、見ていて飽きるというよりも気を抜くことができない。

 このスピーディな編集は、同時期の他の作品と比べても類を見ない。エイゼンシュタインのしっかりとした理論が、このような斬新な編集を可能にしたといえる。しかも、字幕も少ないことも触れておく必要があるだろう。それは、映像で語っていることを意味しているからだ。

 「ストライキ」で最も有名なのは、警官によって行われる虐殺のシーンに牛の屠殺のシーンがモンタージュされている、ラストのシーンだろう。2つの異なった映像を織り交ぜることで、1つの別の意味を生み出すというエイゼンシュテインモンタージュ理論の真骨頂がここにある。今見ると少し露骨過ぎる気もするが、一方でそのあまりにも悲惨な虐殺を、より深く印象付けているようにも感じられる。そして、それは牛の屠殺シーンの残虐さと、その後に続く虐殺された労働者たちの死体の群れのショットの強烈さのおかげでもある。牛の首が切られ、大量の血が流れ出すこのシーンは、現在の基準から見ても強烈で残虐だと言える。だが、こうしたシーンを恐れずに挿入するからこそ、この露骨過ぎるとも感じられるメッセージが、より強烈に伝わってくるのではないだろうか。

 エイゼンシュタインというとモンタージュ論ばかりが取り上げられがちだが、こうした強烈なシーンやショットを批判を恐れずに挿入する部分も注目すべきだろう。「ストライキ」では他にも、赤ん坊が警官によって階上から落とされて死亡するといった、見ていてつらくなるような強烈なシーンもある。

 労働者のストの弾圧というテーマは、決して珍しいものではない。モンタージュ論の先駆者とも言えるD・W・グリフィスも「イントレランス」(1916)の中で、労働者のストの鎮圧を描いている。しかも、このシーンを見たレーニンが絶賛し、グリフィスをソ連に呼ぼうとさえしている。

 エイゼンシュタインが描いたストの弾圧が特徴的なのは、決して特定の何かを批判しているわけではないということだろう。ロシア革命を賛美するという政府の目的に適っているように感じられる「ストライキ」だが、私は決して帝政ロシアブルジョワを批判しているようには感じられなかった。「ストライキ」が批判しているのは、力の弱い人々を搾取する人々である。それは、時代が変わっても、権力者が変わっても通じるものだ。だからこそ、今でも通じるものがある。「労働者たちよ!忘れるな!」というラストのメッセージは、ロシア革命を称えるというよりも、権力者が変わっても労働者の立場が脅かされている以上は戦えと訴えているかのようだ。

 このエイゼンシュタインの反抗心、世の中を広く捉える知性は、他のソ連の映画監督たちの中でも、エイゼンシュタインを一際光を放つ存在にすると同時に、エイゼンシュタインの映画人としての未来に影を落とすことにもなる。

 エイゼンシュタインが見事な演出力を持った映画監督であること、強い反抗心と知性を備えた人物であるということを「ストライキ」は教えてくれる。もしかしたら、エイゼンシュタインの演出法に注目が集まりすぎている感がある「戦艦ポチョムキン」よりも、多くのことを教えてくれるかもしれない。

ストライキ [DVD]

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