「チャーリー・チャン」シリーズの登場と刑事もの

 この時代までに、刑事が犯罪捜査をするという作品はあまりなかった。犯罪を取り上げた作品のほとんどは上流階級を主人公にし、上品で陽気な探偵が登場して事件を解決するというものが多かったのだ。ハリウッドの自主検閲によって陰惨な犯罪が描けなかったためや、世相が陰惨さを求めていなかったというのが理由として考えられるという。小説の世界でも、刑事よりもエルキュール・ポアロのような軽妙洒脱な探偵が幅を利かせていた時代だった。

 刑事は間違った推理で主人公らを追い詰めたりすることで、サスペンスを生み出す脇役として存在した。また、事件を解決する場合でも、活躍するのは探偵や新聞記者で、刑事は彼らに情報を集めるという役割を担うというケースが多かった。また映画においての犯罪は、犯人当てよりもスリラー効果を狙うために用いられるケースが多かったのも、刑事が活躍できなかった理由の1つと言える。

 そんな中、1949年まで47本もの作品が作られる、「チャーリー・チャン」シリーズの第1作「HOUSE WITHOUT KEY」(1926)が作られている。アール・デア・ビガーズが創造したホノルルの中国人警官が主人公の作品で、刑事ものの先駆けとも言えるシリーズである。一方で、時にエジプトにまで足を伸ばすこともあり、警官というイメージから離れた部分もあったという。

 チャンは、古代中国の哲人の警句を発言に折り込み、東洋的神秘さを感じさせた。また、息子たちも捜査に協力するといった点は、当時のアメリカの主流だった大家族主義を感じさせた。こういった要素がアメリカ人に受けたと言われる。

 ちなみに、チャーリー・チャンは中国人の警官なのだが、中国人が扮したことはない。初代が日系のジョージ桑、2代目が日本人の上山草人であり、4代目のスウェーデンワーナー・オーランドでイメージが確立したと言われている。