映画評「ダグラスの海賊」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ  [原題]THE BLACK PIRATE  [製作]エルトン・コーポレーション [配給]ユナイテッド・アーティスツ

[監督]アルバート・パーカー  [製作・原作]ダグラス・フェアバンクス(エルトン・トーマス名義)  [脚本]ジャック・カニンガム  [撮影]ヘンリー・シャープ

[出演]ダグラス・フェアバンクス、ビリー・ダヴ、テンプ・ピゴット、ドナルド・クリスプ、サム・ド・グラッス、アンダース・ランドルフ、チャールズ・スティーヴンス

[賞]アメリカ国立フィルム登録簿登録(1993年)

 海賊に父親を殺された公爵は、その海賊のボスを決闘で倒し、身分を隠して一味に入り込む。海賊に捕らえられていた王女を救う為に時間を稼ぐが、王女を逃がそうとしたことがばれてしまい、海に突き落とされる。公爵は自らの軍隊を率いて王女救出へとやって来る。

 「ダグラスの海賊」の最大の特徴は、カラーであることだろう。二色式カラーで撮影された映像は、私が見たビデオではあまり綺麗ではなく、すぐにカラーと気づかないほどだった。しかし、屋外で撮影されたシーンは、光の量が多いためか綺麗で、海の青さは映えていた。公開当時のフィルムは、もっと違った印象を受けたかもしれないが、慣れない上映方法に撮影技師はとまどって、うまく上映できないこともあったという話も残っている。

 カラーの映画はすでに他にも作られていたが、長編で使われた初の作品とも言われる。これには異論もあるようだが、少なくとも、大作において使われたのは初めてだろう。撮影にあたっての金銭的なリスクも高かったようだ。しかも、巨大な海賊船のセットを作ったりと、カラーでなくても製作費がかかる作品である。

 その意味で、「ダグラスの海賊」は邦題に「ダグラスの」とついているのがふさわしい、まさにダグラス・フェアバンクスだからこそ作り得た作品と言えるだろう。

 当時のダグラス・フェアバンクスは人気の絶頂期にあり、サイレント期のアメリカを代表する俳優、アクション・スターであった。加えて、配給会社ユナイテッド・アーティスツの株主でもあり、プロデューサーとしての顔も持っていた。つまり、自分の思うとおりの映画を作ることができたのだ。

 そんなフェアバンクスが「奇傑ゾロ」(1920)以降に作ったのは、「ダグラスの海賊」のような大作アクション映画だった。言い換えれば金のかかる作品だった。フェアバンクスの映画はヒットしたものの、そこで得た資金を次の作品につぎ込んで映画を製作した。いい意味ではフェアバンクスはチャレンジャーであり、悪い意味では無謀だった。

 ダグラス・フェアバンクスの魅力は快活さ、爽快さにある。「奇傑ゾロ」から「ダグラスの海賊」にいたるフェアバンクスの作品の中で、私が一番好きなのは「三銃士」(1921)だ。勢いにまかせて突き進むダルタニアンの姿は、どんな困難も飄々とくぐり抜けて見せ、フェアバンクスの笑顔が彩りを添えていた。

 「ダグラスの海賊」にも素晴らしいアクションが多くある。有名な短剣を突き刺して、マストから滑り降りるシーンは、このあとの海賊映画にも踏襲されるものだ。「奇傑ゾロ」でも見せた剣術は、堂に入っている。しかし、以前のフェアバンクスが、走ったり、飛んだりして、笑顔を付け加えるだけで味合わせてくれた爽快感に欠けるのだ。

 それは、フェアバンクスの気負いによるものなのかもしれない。「カラーの映像を見せてやろう」「見事なアクションを見せてやろう」という意気込みが痛いほど伝わってくる。一方で、かつての何気なさから来る魅力が失われてしまっている。

 フェアバンクスが演じるキャラクターにも気負いを感じてしまう。フェアバンクスのキャラクターは公爵だ。最後には、自らの所有する軍団を指揮して海賊たちをやっつける。かつてのフェアバンクスには、公爵という肩書きも、軍団も必要なかった。

 「ダグラスの海賊」は、ダグラス・フェアバンクスという映画人が辿ってきた道程を感じさせる作品だ。自らが製作を担当して多額の製作費を投入した作品は失敗できないという気負いは、まさにフェアバンクスならではものだろう。その気負いは、「ダグラスの海賊」を海賊映画の古典とすることは出来た。映画人としてフェアバンクスとしては、集大成とも言える作品だろう。だが、愛すべき役者ダグラス・フェアバンクス映画の代表作としては、私は別の作品を挙げたい。

ダグラスの海賊 [VHS]

ダグラスの海賊 [VHS]