映画評「ボー・ジェスト」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ  [原題]BEAU GESTE  [製作・配給]パラマウント・ピクチャーズ

[監督・脚本]ハーバート・ブレノン  [製作]ジェシー・L・ラスキー、アドルフ・ズーカー、ウィリアム・ルバロン  [原作]パーシヴァル・クリストファー・レン  [脚本]ポール・スコフィールドジョン・ラッセル  [撮影]J・ロイ・ハント  [音楽]ヒューゴ・リーゼンフェルド  [編集]ジュリアン・ジョンソン

[出演]ロナルド・コールマン、ニール・ハミルトン、ラルフ・フォーブス、アリス・ジョイス、メアリー・ブライアン、ノア・ビアリー

 ジェスト三兄弟は両親を早くに失い、叔母の元で養育されて育った。しかし、叔母は彼らの養育のための費用の捻出に苦しむ。ある日、金に困った叔母の夫は、家宝のサファイアを売るように叔母に命じる。その夜、サファイアは盗まれ、三兄弟は叔母の元から姿を消す。

 構成が見事な映画である。冒頭、砂漠にポツンと建てられている小さな砦と、銃眼から顔を覗かせている兵士たち。だが、兵士たちはみな死んでいる。1人のラッパ手が命じられて砦に入るが、出てこない。仕方なく隊長自らが中に入ると、そこには死体があちこちに転がっている。1度砦の外に出て、他の兵士たちと砦の中に戻ると、そこにあった死体のいくつかがなくなっている。そして、一旦引き上げようと離れ始めると、砦からは火の手が上がる。

 砂漠というエキゾチックな場所と、大量の死体という不気味な状況・・・。このオープニングは、見る者の興味を惹くのに十分だ。この後映画は10数年前にさかのぼり、ジェスト三兄弟の幼い頃から育んできた愛情や、フランス外人部隊への入隊とストーリーは進んでいく。過去にさかのぼってからのストーリーは丹念に描かれているものの、決して奇をてらったものではない。それでも、ショッキングなオープニングのおかげで、ジェスト三兄弟の過去から始まった場合とは比べ物にならないほどの、緊張感を与えることに成功している。

 構成とともに見事なのが、脚本に張り巡らされた伏線である。おそらく勘のいい人ならば、すぐに分かってしまうだろうストレートな伏線だが、それでもなお映画の後半で伏線の意味が次々と明らかになっていくのは、気持ちのよさを感じさせる。しかも伏線は、兄弟の愛情、育ててくれた叔母への愛情といったドラマとも結びついており、見る者の感情を揺さぶる効果も上げている。

 「コールマン髭」でおなじみのロナルド・コールマンは、静かな存在感で映画を支えている。これといった見せ場がないにも関わらず、ハンサムな佇まいはそれだけで絵になる。

 砂漠のロケは、アリゾナ州のユタ郡で行われていると思われる。地平線まで見ることができる砂漠に、ラクダに乗った軍隊が行進するシーンは見事だ。サハラ砂漠といわれても納得してしまうロケ地を持っていることが、ハリウッドの強みであったことを再認識させられる。

 1926年にパラマウントが公開した作品の中で、「ボー・ジェスト」は最大のヒット作となった。コールマンというスターの存在もあるだろうが、それよりも見事な構成の脚本が引き締まった映画にしていることが成功の要因ではないかと思われる。ハリウッド映画は、観客を楽しませる話法に磨きをかけ、その話法は現在にも通じる要素を持っていることが「ボー・ジェスト」を見るとわかる。