映画評「イバニエスの激流」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ  [原題]TORRENT  [製作]コスモポリタン・ピクチャーズ、メトロ=ゴールドウィン=メイヤー(MGM)  [配給]メトロ=ゴールドウィン=メイヤー(MGM)

[監督・製作]モンタ・ベル  [製作]アーヴィング・サルバーグ  [原作]ヴィセンテ・ブラスコ・イバニェス  [脚色]ドロシー・ファーナム  [撮影]ウィリアム・H・ダニエルズ  [美術]セドリック・ギボンズ、メリル・パイ

[出演]リカルド・コルテス、グレタ・ガルボ、ガートルード・オルムステッド、エドワード・コネリー、ルシアン・リトルフィールド、マーサ・マトックス、ルーシー・ボーモント、タリー・マーシャル、マック・スウェイン、アーサー・エドマンド・ケリー、リリアン・レイトン

 スペインの田舎町に住む貧しいレオノーラと金持ちラファエルは互いに愛し合っている。だが、ラファエルの母は交際を許さない。2人は結びつくことなく、レオノーラはオペラの歌手にラファエルは議員となる。再会した2人は再び愛し合うが、ラファエルには母の決めた許嫁がいた。

 「イバニエスの激流」は、初めてガルボが出演したアメリカ映画である。田舎娘から、オペラの歌手になるという展開は、純朴な女性から光り輝く女性へのガルボの変貌を見せることができ、ガルボアメリカでのお披露目にふさわしい内容といえるだろう。

 当時20歳を超えたばかりのガルボの魅力は遺憾なく発揮されている。物憂げな目というガルボの特徴はもちろん、ラファエルを時に冷たく突き放し、時に情熱的に迫る様子はガルボの魅力の幅を教えてくれる。愛するラファエルが訪問してきたときに見せる、飛び跳ねて喜ぶガルボの姿は違和感を覚えるほど生き生きとしている。ちなみに、後に「ニノチカ」(1939)において、「ガルボ笑う」という宣伝文句が使われたが、この作品の中ではガルボの笑顔を見ることができる。

 イバニェスによる原作は、ルドルフ・ヴァレンティノ主演の「血と砂」(1922)がそうであるように、階級問題を前面に出したものではないかと思われる。この作品は、オノーラとラファエルのメロドラマを主軸としながらも、階級問題についての要素もしっかりと残している。

 特筆すべきはラストだ。短い期間にすっかり老けてしまったラファエルと、まだ若々しいオノーラの対比は、映画に苦さを与えている。決して結ばれることない2人の物語は、決して単純に解決することのない階級問題を投影しているかのようだ。また、生まれが貧しかったオノーラが若々しいのに対して、金持ちから議員になったラファエルがすっかり老け込んでしまっている点は、貧しい側への応援の視線も感じさせる。

 途中でミニチュアを駆使した、大雨によるダムの決壊シーンといったスペクタクルな見せ場もある。美しいガルボの魅力、単純でありながら豊穣なストーリー、スペクタクルと、「イバニエスの激流」は見ていて飽きることのない一級の作品だ。