映画評「三悪人」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ　　[原題]3 BAD MEN　　[製作・製作]フォックス・フィルム・コーポレーション

[監督・製作]ジョン・フォード　　[原作]ハーマン・ホイテカー　　[脚本]ジョン・ストーン　　[撮影]ジョージ・シュナイダーマン

[出演]ジョージ・オブライエン、オリーヴ・ボーデン、ルー・テレヘン、トム・サンチ、Ｊ・ファレル・マクドナルド

　ブル、マイク、スペードの三人は、ダコタへ入植にやって来る途中で、父親を殺された女性リーと出会う。彼女の世話をすることに決めた三人に、リーの夫候補にブルが見つけてきたダンを加え、ダコタで行われたランド・ラッシュ（土地争奪戦）に参加するが、ランド･ラッシュには対立する保安官も参加していた。

　冒頭、当時のアメリカの様子が説明される静かな始まり。金が発掘された西部のインディアンの居留地は、一転して入植者を受け入れることになったのだ。入植のためにやって来る人、人、人。大陸横断鉄道の敷設の様子を叙事詩的に描いた「アイアン・ホース」（１９２４）で地位を確立したジョン･フォードは、「三悪人」でも、同じように土地争奪戦を叙事詩的に描くのかと思わせる出だしである。しかし、ジョン･フォードは、冒頭で「これはアメリカの物語ですよ」という説明をした上で、思い切り人情物語を語ってみせる。

　１人の女性を守る心優しき三悪人がたまらない魅力を放っている。しっかりもののブルに、コメディ・リリーフ的な役割のマイクとスペードというトリオは、楽しき西部の小話を楽しませてくれる。ジョージ･オブライエン演じるダンは、リーの恋人としての役割を与えられ、三悪人ほどの見せ場はないものの、擬似家族の一員としての役割をしっかり果たし、コミックなシーンで楽しませてもくれる。

　アメリカの歴史として始まった「三悪人」は、後半で再びアメリカの歴史に回帰する。馬車や馬に乗った人々が早い者勝ちのレースによって土地を奪い合うランド･ラッシュがそれだ。トム･クルーズ主演の「遥かなる大地」（１９９２）でも描かれたランド･ラッシュは、まさにアメリカならではの出来事である。

　ジョン･フォードの演出は、ここで最高の冴えを見せる。ランド･ラッシュのスタート・ラインに並ぶ馬車や馬の長い列を遠景の、ゆっくりとしたパン撮影で見せる。「まだ続くの？」と思わせる列もまた、広大なアメリカそのものを感じさせる。そして、スタートを待つ人々のショットを、徐々に短くしてつなげる編集は、見る者にスタートへの緊張感を伝える。

　スタートした後、巻き上がる砂煙、狂ったように馬にムチを打つ人々。狂乱に交じって、馬に自転車を結び付けて走る男や、歩く馬にゆっくりと馬車を引かせている老人、レースの模様をニュースとして電信する記者とその部下といったコメディの要素が垣間見える。さらには、草原に取り残された赤ん坊に馬が迫るシーンにはサスペンスがある。車輪が外れためにいい金鉱を獲得できなかったと落ち込む夫婦の獲得した土地が、金のように豊かであることを知って喜ぶシーンには、ドラマと実直に農作物に育てる人々への暖かい視線がある。

　ジョン･フォードの長年にわたる相棒である撮影のシュナイダーマンは、カメラを地面スレスレに置いて、駆ける馬を迫力満点に撮影している点も触れておきたい。

　ランド･ラッシュでアメリカを描いた後、映画はふたたび三悪人に戻る。しかし、今度は人情話としてではなく、格好いい男たちとしての三悪人だ。彼らのこの後については、触れないでおこう。しかし、この後の様々な映画で見ることになるパターンでありながら、そのどれにも負けない格好良さを見せ付けてくれるということだけは書いておきたい。

　「三悪人」の後、ジョン･フォードは「駅馬車」（１９３９）まで西部劇を作らない。また、「アイアン・ホース」から「三悪人」の間には西部劇ではない作品を数多く監督している。淀川長治は、ジョン･フォードを「西部劇」の監督ではなく、「ドラマ」の監督だと述べている。確かに、「西部劇」の監督としてだけジョン･フォードを見てしまうと、見逃してしまうものが多くあるかもしれない。

　「三悪人」を見ていて思ったのは、映画の進展には無関係のシーンが多々あるということだ。例えば、上に挙げたランド･ラッシュの人々がそうだし、途中で別の女性をリーだと思ってダンが手を撫でているところをリーに見つかって気まずくなるといったシークエンスがそうだ。しかし、ストーリーの進展とは別として、これらが映画に格別の味付けをしていることは間違いない。フォードは、こういった細部にドラマを埋め込んでいると言ってもいい。

　「三悪人」は、アメリカの歴史と最高に格好いい三悪人の物語を組み合わせたら、西部劇になったという印象を受ける。だから「三悪人」を一言で言うとしたら「西部劇」ではなく、「ジョン･フォードの映画」と言いたい。

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