映画評「海の野獣」
※ネタバレが含まれている場合があります
[製作国]アメリカ [原題]THE SEA BEAST [製作・製作]ワーナー・ブラザース
[監督]ミラード・ウェッブ [原作]ハーマン・メルヴィル [脚本]ベス・メレディス [撮影]バイロン・ハスキン、フランク・ケッソン
[出演]ジョン・バリモア、ドロレス・コステロ、ジョージ・オハラ、マイク・ドンリン、サム・ベッカー、ジェームズ・O・バロウズ
ハーマン・メルヴィルの著名な小説「白鯨」の映画化作品だが、大きく改変されている。足をモビー・ディックに食いちぎられる前に、エイハブ船長はエスターという女性と愛し合っており、そのことに嫉妬した腹違いの兄弟に船から突き落とされることが、足を食いちぎられる原因となっている。モビー・ディックへの復讐の念も、モビー・ディックそのものに加えて、足を失った自分を捨てた(実際は勘違い)エスターへの恨みも加わっている。
カリフォルニアの湖で撮影されたという荒れくれた海やモビー・ディックとの戦いの描写の迫力も見どころだが、最大の見どころはジョン・バリモアの演技だ。序盤のエスターへの愛に満ち溢れている時の、これぞハンサムといった表情。ここから、腕に入れたエスターの文字の刺青に焼きごてを押し付けて消すと、まるでジキル博士とハイド氏のハイドのようにメイクも髪型も表情も変わる。マントにシルクハットを被った扮装は、「カリガリ博士」のカリガリのようだ。
やり過ぎと言えばやり過ぎかもしれない。だが一方で、エスターの心変わりを聞くシーンや、カーテンに映った影を見てエスターがキスしていると勘違いするシーンでは、微妙な表情の変化で心境を表現してみせてくれるのが心憎い。この小さな変化と大げさな変化が、ジョン・バリモアの魅力なのだ。
著名な原作の知名度を利用して作られた、大味な作品かもしれない。130分以上の上映時間は長すぎるかもしれない。だが、ここにはジョン・バリモアの魅力がある。