映画評「エドガー・アラン・ポーの鐘」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ [原題]THE BELLS  [製作・配給]チャドウィック・ピクチャーズ

[監督・脚本]ジェームズ・ヤング [製作]I・E・チャドウィック  [原作]アレクサンドル・チャトリアン、エミール・エルクマン  [撮影]L・ウィリアム・オコンネル

[出演]ライオネル・バリモア、ロリマー・ジョンストン、キャロライン・フランセス・クック、ボリス・カーロフ

 小さな村。マチアスは、宿屋を経営している。村長を目指すマチアスは、村民の飲食代をツケにしてあげるために人気を得ているが、一方で経営的には困窮しており、フランツから多額の借金をしている。ある日、吹雪の中休みにやってきたユダヤ人の商人を殺して、持っていた金のベルトを奪ってしまう。

 エドガー・アラン・ポーの「鐘」という詩が元ネタとして宣伝された作品だが、実際には19世紀に書かれた舞台の映画化なのだという。確かに、罪の意識に苛まれる展開はポーを思わせもする。ポーの知名度の高さをうかがい知ることができるエピソードだ。

 この後、トーキーになった映画界でも活躍するバリモアは、サイレント期から映画に出演していた。「鐘」のバリモアは、犯人を自白させてみせるという催眠術師の登場もあり、マチアスがひたすら罪の意識に苛まれ、幻影も見るようになっていく姿を、少しオーバー・アクト気味ではあるものの、演じ切って見せる。「グランド・ホテル」(1932)とは公開が6年しか違わないものの、序盤ではまだ若さも感じさせる風貌を見せてくれ、若い頃はさぞかしハンサムだったであろうことを偲ばせる。

 二重写しで殺したユダヤ人の商人が登場したりと、映像トリックをふんだんに使用しているのも特徴である。サイレント期の作品は、ドラマでも映像トリックを使った作品が多い。トーキーと比べて、「音のない世界」という非現実性の強いサイレント映画には、映像トリックがよく合うのだ。

 まだ知名度が低かった頃のボリス・カーロフが催眠術師の役で出演している。ソフトのパッケージなどではカーロフが大きくフィーチャーされているものの、かなりの脇役である。カーロフが出演していることよりも、催眠術師の見た目が、「カリガリ博士」(1919)の催眠術師そのままの方が気になった。「カリガリ博士」の影響の大きさを感じさせる。

 バリモアの熱演に、効果的に使用されている映像トリック、「罪の意識に苛まれる男」に集中したストーリーと、非常にまとまりのある作品だ。