映画評「黒い鳥」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ [原題]THE BLACKBIRD  [製作・配給]メトロ=ゴールドウィン=メイヤー

[監督・原案]トッド・ブラウニング [脚本]ウォルデマー・ヤング [撮影]パーシー・ヒルバーン [編集]エロール・タガート

[出演]ロン・チェイニーオーウェン・ムーア、ルネ・アドレー、ドリス・ロイド、アンディ・マクレナン

 「ブラックバード」と呼ばれる犯罪者ダンと、その兄弟である「ビショップ」と呼ばれる右半身がねじれた聖人がいた。だが、実は2人は同一人物で、犯罪の隠れ蓑としてダンがビショップを演じていたのだった。ダンはヴォードヴィルショーに出演するフィフィに恋をする。だが、フィフィは紳士然とした男バーティに恋してしまう。バーティも実は犯罪者で、2人の仲を裂こうとするダンは、ビショップになってフィフィにそのことを告げるが、バーティの真っ当になるという言葉を信じ、逆に仲が深まってしまう。

 監督トッド・ブラウニング=主演ロン・チェイニーという、サイレント期のアメリカ映画を代表するコンビの1つによる作品。「オペラの怪人」(1925)の特殊メイク姿で知られるチェイニーだが、多くの作品では素顔で演じている。だが、一筋縄ではいかないキャラクターを演じている事が多く、「黒い鳥」でも右半身がよじれたビショップで身体的なハンデを負った体当たりの演技を見せる一方で、ブラックバードを演じているときは凄みと恋に盲目になる愚かさを表現してみせる。

 正直言ってストーリーも設定も微妙だ。犯罪者であることを隠すために、体を酷使してビショップを演じ続ける必然性の無さ。ブラックバードとビショップが口論をしているように演じながら、服を着替えるシーンはコメディのノリだ。そして、それに気づかない周りの人々の不自然さ。まるで、チェイニーに2役を演じさせるためだけに作られたかのような設定だ。だが、それに見事に応えているのがチェイニーの凄さだ。

 フィフィが自分から離れていく怒りを目で表現する。フィフィがバーティに連れられていってしまった後、フィフィのために注文したが飲まれなかったワインのグラスを手で払いのける酒場でのシーン。ビショップになってバーティの素性を明かすも、フィフィの愛を冷ますことに失敗した時の怒りと哀しみの目から、ビショップとしての慈愛に満ちた目への瞬間的な変化など、チェイニーの実力はいかんなく刻み込まれている。

 映画の出来としてはつまらない作品かもしれない。無理な設定がコメディのようで、シリアスになりきれていないとも言える。だが、身体障害者、犯罪者、ヴォードヴィルショーといったトッド・ブラウニングらしい設定に、チェイニーの素晴らしい演技が加わると、決して放っておくことはできない。