映画評「ファウスト」
※ネタバレが含まれている場合があります
[製作国]ドイツ [原題]FAUST: EINE DEUTSCHE VOLKSSAGE [英語題] FAUST [製作・配給]ウーファ
[監督]F・W・ムルナウ [監督]エーリッヒ・ポマー [原作]ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ [脚本]ハンス・カイザー、ゲアハルト・ハウプトマン [撮影]カール・ホフマン [美術・衣装]ロベルト・ヘルルト、ワルター・レーリッヒ [衣装]ジョルジュ・アネンコフ
[出演]ヨースタ・エックマン、エミール・ヤニングス、カミルラ・ホルン、フリーダ・リヒャルト、ウィルヘルム・ディターレ
老博士のファウストは、ペストに無力な宗教や科学に落胆し、悪魔の使いであるメフィストの誘いに乗り、永遠の若さの代わりに魂を売る契約に署名する。若返ったファウストは、美しい女性グレッシェンに恋をする。
ゲーテによる国民的な物語の映画化である。当時ウーファ社は、アメリカのパラマウントおよびMGMと協定を結んでいたこともあり、ジョン・バリモアやリリアン・ギッシュの出演も考えられていたという。リリアン・ギッシュはお気に入りのカメラマンだったチャールズ・ロシャーの起用が認められなかったため、出演しなかったと言われる。
物語は、ゲーテの戯曲のみが使われているわけではない。ゲーテの戯曲自体が、ドイツに伝わる伝承から着想を得ており、映画のシナリオは伝承も織り交ぜて作られている。神と悪魔の対決を大枠としながらも、悪魔の力に魅せられたファウストが、愛の力を発揮するという展開に、宗教の枠を超えた人間の素晴らしさを謳い上げているとも言える。だが一方で、単純のメロドラマに過ぎないという見方もできる。メロドラマとして見たとき、彼らの愛の戦いは少し物足りない。
ムルナウの演出は、ゲーテの戯曲の挿絵や、有名な画家の構図を参考にしているという指摘がある。大仰な構図や、特殊撮影を多用した非現実的な描写が多いのは、絵画ならではの自由な構図を再現するためだったのかもしれない。
物語や構図に加えて、エミール・ヤニングス演じるメフィストのカリカチュアされた演技や、見た目からして大げさな若返る前の老ファウストの演技も大仰だ。こうした大仰さの中で、人間的なドラマを紡ぐはずの若返ったファウストやグレッシェンの影は薄い。
だからといって悪いわけではない。この大仰さはそれで1つの魅力である。だが、リリアン・ギッシュがグレッシェン役を演じなくてよかったのではないだろうかと思う。ギッシュが大仰さの中で埋もれた姿は見たくない。グレッシェンと同じような役柄で、ギッシュが見事な「真紅の文字」(1926)をもう一度見たくなった。「真紅の文字」には人間がいる。
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