スキャンダルに怯えるハリウッド


 セシル・B・デミル監督「キング・オブ・キングス」には面白いエピソードがある。「キング・オブ・キングス」に出演したドロシー・カミングは、7年間にわたり演じた役を汚すことをしてはいけないという契約を結ばされた。このため、カミングが後に離婚訴訟を起こしたとき、この契約が問題になったのだという。結局、カミングは個人的自由の侵害であるという主張して認められ、契約は無効となった。

 この出来事は、当時のハリウッドがいかにスキャンダルに対する世間からの批判を恐れていたのかを例証している。アレグザンダー・ウォーカーは、当時のハリウッドのスキャンダルへの恐怖について次のように書いている。

 「(ハリウッドの)帝王たちは自分たちが移民としてアメリカに来た時の、さほど遠くない過去の記憶につきまとわれていたために、スキャンダルが、自分たちの渇望している先住民たちなみの安定した人生の獲得を妨げるのではないかと恐れた。大部分の帝王たちにとって明確にアメリカ的な映画を作ることは、新しい社会への入場券、すなわちハリウッドに依然として存在し、彼らのような二十世紀の新しい重要産業の創設者さえも免れ得なかった人種的階級的偏見を乗り越えて、新しい社会に受け入れられるための手段であった。スキャンダルに対する恐怖心は1950年代中葉以降まで、すなわち、新世代の自信に満ちた映画製作者たちが支配権を握り、大手製作会社中心のシステムが消滅することによって、映画産業自身がそれほど目立った標的ではなくなるまで衰えなかった。映画産業に長々つきまとったこの不安感の源は、1920年代初め、映画が単なる儲け仕事から大量生産による産業に移行する頃に被った精神的外傷にまで遡ることができる」