ドイツ 「懐かしの巴里」 G・W・パプストのリアルな描写力

 多くの監督や俳優たちがハリウッドへと去っていったドイツ映画界は寂しい様相を呈していた。だがその中で、即物主義的作品を監督したG・W・パプストが気を吐いていた。パプストは、恋愛もの「懐かしの巴里」(1927)を監督している。ブリギッテ・ヘルム、フリッツ・ラスプが出演した作品で、イリヤ・エレンブルグの小説を土台に、各国の社会情勢を描き出しながら、フランスの金持ち娘とソ連の青年の恋を描いた。

 ウーファがロシア革命を撮り上げた唯一の映画とも言われるが、革命を取り上げたのはソ連映画人気にあやかろうとしたためだという。しかし、「懐かしの巴里」での革命は、メロドラマの舞台として使われ、原作は書き換えられている。このことに対し、原作者イリヤ・エレンブルグは、映画は小説と関係ないということを表明した。

 パプストは、リアルな描写力で、なるべく主観をまじえずに個々の事物をカメラに記録しているという。人工照明を避けて自然光で撮影が行われている。照明効果を大切にするドイツ映画では珍しいと言われる。

 岡田晋は「懐かしの巴里」について、「カメラの動き、たえず変化する画面によって、現実のすばらしい実感を観客のイメージのなかに残す」(ドイツ映画史)と書いている。