1927年のフランス映画の代表作 アベル・ガンス「ナポレオン」

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 1927年のフランス映画の代表作はアベル・ガンスの「ナポレオン」(1927)であろう。ナポレオンが砲兵隊長として戦功を立てて将軍となり、イタリア遠征に出発するまでを描いた作品である。

 大量の衣装、鉄砲、大砲が集めたり、作られたりした。無声映画時代のフランスで最も制作費のかかった映画となり、出資者が途中で破産したため、4分の1の撮影を終えた時点で1度中断したが、新たな出資者を見つけ、4ヵ月後に再開された。

 ガンスは技術面で独創性を発揮し、ポータブル撮影機の利用、移動撮影、スクリーン・プロセス、一人称カメラなど様々なテクニックを駆使した。

 オリジナルは12時間もあり、「トリプル・エクラン方式」という3台の映写機での上映など、斬新な映画作りで話題となった。「トリプル・エクラン方式」は、3台のカメラを並べて撮影し、映写も3台の映写機で、3倍の横長スクリーンで上映するというものだった。3台が別々の映像を映写したり、それぞれがさらに分割されて最大で27の別々の映像が同時に動いた。発想は後のシネラマと同じだが、より凝ったものだった。設備の都合で一部の映画館での上映に限定されていたものの、3つの画面に異なった主題を結合させて、視覚的交響曲を形成し、マスキングや二重写しの使用で1秒間に数十の映像を見せた。ちなみに、「ナポレオン」には、映画草創期から特殊撮影の専門家として活躍したスペイン人のセグンド・デ・チョモンも関わっているという。

 当初のガンスの計画は、ナポレオンの生涯を6部作で描こうというものだった。第1部として6時間の大作として完成された「ナポレオン」は、パリのオペラ座で1時間半ずつ4晩に渡って上映され、絶賛された。だが、トーキー時代に突入したこともあり、ナポレオンが完全な形で上映されたのは、パリ以外ではヨーロッパの7都市のみにとどまった。ニューヨークではトリプル・エクランを使用しない短縮版を上映し、興行的に惨敗した。

 ガンスの夢は、興行的な失敗によって経たれた。以後ガンスは、第1部だけでも良くしようと、何度も撮り足して再編集、トーキー化、立体音響化し、次々に異なったバージョンを製作していく。

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