映画評「キートンの大学生」
※ネタバレが含まれている場合があります
[製作国]アメリカ [別題]キートンのカレッジ・ライフ [原題]COLLEGE [製作]ジョセフ・M・シェンク・プロダクションズ [配給]ユナイテッド・アーテイスツ
[監督]ジェームズ・W・ホートン [脚本]カール・ハルボー、ブライアン・フォイ [撮影]バート・ヘインズ、デイヴ・ジェニングス [編集]シャーマン・ケル
[出演]バスター・キートン、アン・コーンウォール、フローラ・ブラムリー、ハロルド・グッドウィン、スニッツ・エドワーズ、カール・ハーバウ、サム・クロフォード、フローレンス・ターナー
運動音痴だが勉強は得意なロナルドは、愛するメアリーに振り向いてもらうおうと、メアリーと同じ大学に入学して、様々な運動に挑戦するがうまくできない。
監督にはホーンの名前がクレジットされているが、キートンによればほとんどをキートンが監督したのだという。
「大学生」は前の作品が「大列車追跡」(1927)、次の作品が「蒸気船」(1928)という、キートンの代表作と言われる二作に挟まれた作品である。規模も2作と比べると小さく、恐らく製作費も安いのでないかと思われる。だからといって、つまらない作品ではない。
見所は、キートン演じるロナルドが、あらゆるスポーツに挑戦しては「失敗」することだ。野球はキャッチャーのレガースなどをつけて三塁を守りだすし、100メートルを走っては鬼ごっこをする小学生に負けてしまう。本当は運動神経が抜群なキートンが、わざと運動神経がない男の役を演じるところに、逆にキートンの身体能力の高さを感じさせる。
失敗の連続によって、キートンの身体能力の高さを見られないフラストレーションは、最後に見事に解消される構成になっている。愛するメアリーが監禁されていることを知ったロナルドは、スポーツだとできなかったあらゆることをこなして、助けに行く。走り幅跳びや走り高跳びのように障害を乗り越え、最後は棒高跳びの要領で、2階の窓に突っ込んでいく。
助け出されたメアリーは、ロナルドと結婚することを決意する。正直、あまりに唐突過ぎるように感じた。ロナルドの良いところをメアリーは見ていないのだから。しかし、思い出してみると、ロナルドが苦手なスポーツを克服しようと哀れな努力を続けていたのを、メアリーは見ていたではないか。そう、それだけで十分なのだ。高校の卒業式で「私のために来てくれたのね」と言ったメアリーに、ロナルドは数ヵ月後にやっと答えを返したのだ。
キートンの映画はアクロバティックな動きに注目が集まりやすい。その一方で、「大学生」で語られるのは、コメディであると同時に、スポーツが苦手な男が、努力によって愛する女性の心を捉える話であることを見逃してはならないだろう。だからこそ、墓場まで連れ添った2人のエピローグは必要なのだ。
もう1つ忘れられがちなキートンお得意の細かいギャグにも触れておきたい。私が一番好きなのは、走り高跳びの練習をしているロナルドが、なるべく勢いをつけようと、かなり遠くから全速力で走ってくる途中で、高飛びのポールが落ちてしまうというギャグだ。さらに、スローモーションによるギャグにも触れておこう。毛布を使って胴上げをされたロナルドが、空中で傘を開いた途端にゆっくり落ちるようになるというギャグだ。
「大学生」は、キートンの代表作ではないかもしれない。しかし、キートンの映画づくりの質の高さを証明する作品である。大げさで、金がかかっていて、キートンが走り回り、跳び回る。そんな作品ではない、ちょっとした恋愛話でも、キートンが「大学生」のような愛すべき作品を残してくれたことを、忘れないようにしたいとなぜだか思う。
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