ジョルジュ・メリエスの衰退

 ジョルジュ・メリエスはこの年も、今までと同じようにトリック映画を製作している。「悪魔の400の悪ふざけ(「悪魔の大騒ぎ」)」(1906)は、主人公が黙示録に登場する馬が引っ張る馬車に乗って、地獄へと駆けていくという内容のもので、今までどおりに舞台を撮影するというスタイルだった(1905年にはパテ社が「親指太郎」という夢幻劇をロケで撮影している)。他にも今までと同じ方法で製作された「生きているシャボン玉」や、「煙突掃除夫ジャック」といった現実的な場面と夢幻的な場面を組み合わせた作品も製作している。

 長年、トリック映画や夢幻的な作品を製作してきたメリエスだが、作品の売れ行きが鈍ってきたために、新機軸としてリアリズムを売りにした作品も製作している。「放火犯人たち」(1906)「ロベール・マケールとベルトラン」(1906)といった作品がそれだが、舞台を撮影するというスタイルは変わらず、成功したとはいえなかった。また、これらの作品は、パテ社やゴーモン社、イギリスの作品から着想を得て作られていた。かつてはメリエスの作品を他の映画会社が真似ていたことを考えると、この逆転ぶりからもメリエス社の衰退を読み取ることができる。