アリス・ギィ−世界最初の女性映画監督(3)

 もちろん、ここが日本であるという理由もある。しかし、どうやらフランスでも状況はさほど変わらないらしい。おそらく、ゴーモン社の倉庫の中には探し出せばいくつかのフィルムは出てきそうらしいのだが、利益にならないアリス・ギィのフィルムの捜索が行われる可能性は低い。

 ただし、仮にゴーモン社からフィルムが見つかったとしても、アリス・ギィがジョルジュ・メリエスと同じくらいの知名度を映画史に占めることができるかというと、それは疑わしい。それほど、メリエス知名度は強固なものとなっているし、アリス・ギィの作品は(出来はともかくとして)、メリエスの作品ほど独特の世界を構築しているわけではないらしいからだ。

 アリス・ギィの功績は大きい。その功績に対して、世間の知名度は低い。それは確かだ。また、メリエスが物語映画の始祖、トリック映画の始祖とまで言われているのは、過大評価と言えるかもしれない。しかし、アリス・ギィの作品が、メリエスの作品と同じくらいの輝きを放っていたかはわからない。作品を見ることができない現在では尚のことだ。

 映画にとって見られないことが最大の不幸であることが、アリス・ギィの周辺からは漂ってくる。それは、もしかしたらおもしろい映画を見ることができなくなっているかもしれないという意味で、映画の受け手である私たちにとってもそうだ。また、映画の史実を明らかにしようという映画研究家にとってもそうだ。そして、何よりも正当な評価を得られない、アリス・ギィ自身が不幸である。