ジョルジュ・メリエス−映画を見世物に向かわせた男(6)

 メリエスが行ったような奇術的な使い方以外にも、カメラを使って撮影されたフィルムはいろんなことができる。その1つが、物語を語るということだ。映画はこれから先、物語を語るという側面を推し進めていくことになるのだが、メリエスはこの物語を語るという面と、奇術的な使い方を融合させてもいる。

 代表作が「月世界旅行」(1902)だろう。ロケットに乗って月に向かった人々は、そこで月の住人たちと争いになる。人々は命からがら地球に戻ってくる。単純といえば単純なこのストーリーは、月へのロケットの到着シーンでは月が徐々に大きくなり(描かれた月をカメラに近づけることで表現された)、着陸した瞬間に月は痛そうな顔をして鼻水を垂らす(一旦カメラを止めたトリック)。月の住人との戦いでは、地球人が棒で月の住人を殴ると、月の住人は煙と共に一瞬で消えてなくなってしまう(これもカメラを止めたトリック)。

 ここで使われているトリックは決して物語を語る上で絶対に必要なわけではない。だが、月への旅行という夢幻的な内容には、ぴったりとはまる。あり得ない物語を効果的に語る上で、月の住人が一瞬で消えるというあり得ないトリックは効果的だ。

 メリエスの映画を語る上で、もう1つ忘れてはいかない点がある。それは、セットの素晴らしさだ。セットといっても、背景は書割なのだが、この書割が素晴らしい。舞台でも美術を担当していたというメリエスによって描かれた書割もまた、夢幻的な内容を引き立たせる効果を持っている。


私が見たメリエスの映画が見られるDVD・ビデオ
「THE MOVIE BEGIN」(アメリカで発売されているDVD)
「フランス映画の誕生」(ジュネス企画
本「死ぬまでに見たい映画1001本」の付録
死ぬまでに観たい映画1001本