D・W・グリフィスの監督デビュー(2)

 グリフィスは監督になってから、撮影方法に工夫を凝らし、「インディアンと子供」「黄金が好きで」(1908)といった作品では、クロース・アップに近い距離での撮影を行っている。また、「幾年月の後」(1908)では、クロース・アップに加えてテンポの早いモンタージュも導入されている。

 グリフィスがクロース・アップを使用するようになったときの話が、「リリアン・ギッシュ自伝」に次のように書かれていた。

 グリフィスはある映画の撮影において、2人の泥棒が互いに信用しなくなることを伝えようとした。撮影のビリー・ビッツァーは、二重露出で片隅に丸く囲って挿入し、頭の中で考えていることを表現する「ドリーム・バルーン」という方法を薦めた。だが、グリフィスは俳優に人を信用できないという表情をさせて、クロース・アップで撮影した。会社(バイオグラフ)側は役者の全身が見えないことや背景がボケていることを批判したが、グリフィスはマーヴィンに近づき、人は近くで人を見ると全身は見えないし背景もはっきりしないということを証明して納得させた。

 この話が完全に本当かはわからないが、伝説としてはおもしろい。

リリアン・ギッシュ自伝―映画とグリフィスと私 (リュミエール叢書)