スターの引き抜き合戦(1)
MPPCと独立系映画製作会社の戦いは、スターの引き抜きという形でも現れている。MPPC側の映画会社が抱えていた最良の技術者と俳優たちの獲得を独立系の映画会社が狙ったのだ。
1910年3月、バイオグラフ・ガールの1人だったフローレンス・ローレンスをカール・レムリのIMPが引き抜いている。このとき、レムリは宣伝のために策を凝らしている。
フローレンス・ローレンスが市電にひかれて死亡した記事を新聞に載せた。1週間後、映画業界紙に「元バイオグラフ・ガールで、今IMPガールのローレンスが死亡したのはデマであり、IMPで作品を撮影している。健在を示すためにセントルイスの劇場で舞台挨拶をする」という記事が載せた。事故はレムリによる宣伝のためのデマだった。作戦は見事に成功し、セントルイスの舞台挨拶は映画ファンで超満員になり、ローレンスのドレスが引きちぎられる事態まで起こった。ローレンスの売り出し作戦はハリウッド流の話題づくり第一号と言われている。
ローレンスの話には裏がある。ローレンスはIMPに移籍したときには、バイオグラフからクビになっていたのだという。バイオグラフ社で人気を得たローレンスは、エッサネイに自分を売り込んだ。だが、バイオグラフと同じMPPC陣営だったエッサネイはバイオグラフに報告。クビになったところをレムリが雇い、死亡記事の宣伝を行ったのだという。クビになっていたとはいえ、レムリが手を凝らして見事にローレンスを売り出したことは否定できない。カール・レムリは映画にスターを誕生させた男といえるかもしれない。
(映画本紹介)
- 作者: アレグザンダー・ウォーカー,渡辺武信,渡辺葉子
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 1988
- メディア: 単行本
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スターの紹介ではなく、ハリウッドにおいてスターがいかに作られていったか、そしてスターがどのようにハリウッドに影響を及ぼしたかを考察した一冊。伝説となったスターの俗説の裏にある話も多々ある。