デンマークにおけるアニタ・ニールセンのデビュー

 ノーディスク社を中心に発展を見せていたデンマーク映画界では、国際的な人気を得た女優であるアニタ・ニールセンがデビューしている。デビュー作は「深淵」で、ウアバン・ギャズが演出を担当した。ギャズは、ニールセン専門の演出家として活躍していく。

 ニールセンは肉体と情熱的演技で国際的名声を得た女優で、北欧女優の海外流出第一号と言われる。ニールセンは「ヴァンプ」タイプの男を滅ぼすタイプの女性で人気を得た。ヴァンプは世界的に流行した。ヴァンプは非難される一方で、女性解放のシンボルでもあった。また、デンマーク映画のキスは本当に唇を重ねるので、ワイセツだと当時言われたという。

 またデンマークでは、「白人奴隷売買」「奴隷売買人動く」(1910)という犯罪映画が、フォトラマ社によって製作されている。当時の平均上映時間の約2倍である上映時間40分の作品で、自動車を使ったスピードとスリルでヒットを飛ばした。フランス・エクレール社の探偵活劇シリーズ「ニック・カーター」の影響を受けているとも言われる。

 フォトラマ社は、トーマス・S・ヘルマンスンと人物がボスの会社である。ヘルマンスンはアメリカへ移民して写真家になり、帰国してから映画製作を開始した人物である。1909年にTh・S・ヘルマンスン社を創立し、1910年にフォトラマ社に改称している。

 2作のヒットを受けて、デンマークの老舗映画会社であるノーディスク社は対抗して、タイトルが同じである「白人奴隷売買」(1910)を製作している。

 当時のデンマークで最大だったノーディスク社は、20分以内の様々なジャンルの作品を量産していた。この年は他にも、実際に古城でロケを行った「ハムレット」(1910)がアウグスト・ブロム監督によって製作されてる。



(映画本紹介)

無声映画芸術への道―フランス映画の行方〈2〉1909‐1914 (世界映画全史)

無声映画芸術への道―フランス映画の行方〈2〉1909‐1914 (世界映画全史)

映画誕生前から1929年前までを12巻にわたって著述された大著。濃密さは他の追随を許さない。