D・W・グリフィスの作品 1909年(5)

「CORNER IN WHEAT(小麦の買占め)」

 D・W・グリフィス監督作品。バイオグラフ社製作。

 社会問題、特に金持ちと貧しい人々の対比を描いた作品は、エジソン社が製作したエドウィン・S・ポーター監督作「THE KLEPTOMANIAC」(1905)など、過去にも例がある。当時のアメリカでの映画の観客(ニッケルオデオンの観客)の多くは、労働者階級であることを考えると、もっと多く作られてもいいように思えるが、社会問題を扱うということは、様々な批判を受ける可能性もあるためか、それほど多くは作られていない。

 この作品は、「小麦王」と呼ばれる小麦マーケットの覇者と、小麦の買占めによって高騰したパン屋に集う貧しい人々、さらに貧しい小麦農家の三者を巧みに編集で組み合わせて撮られた作品である。14分という短い上映時間の中で、わかりやすい対比によって見事にストーリーが語られている。ストーリーは2つの原作を元にしているというが、うまく組み合わせた構成はグリフィスの功績だろう。

 興奮した小麦王が自らを富に導いた小麦のサイロに落ちて窒息死するという展開も、わかりやすすぎるともいえるが、皮肉が効いている。

 基本的に舞台を撮影するような固定的なショット、書き割りの背景など、当時のほかの会社の作品と比べて変わらない点は多い。それでも、編集が工夫されているだけで、一味も二味も違う作品になっている。むしろ、予算や厳しいスケジュール(この頃グリフィスは週に2〜3本の一巻もの(15分程度)の作品を監督していたという)の中で、映画をよくしていくために編集技法が工夫されていったかのようだ。また、役者の演技は抑制されてそれまでと比べてリアルさを感じさせる点も触れなければならない。

 特筆すべきは、ラストに漂う叙情性だ。資本家の狂騒劇、パン屋での混乱という「動」に対して、小麦農家は「静」である。様々な狂乱があろうとも、貧しい小麦農家が出来ることといったら、種を蒔いて、豊作を願うしかない。静かに畑に種を蒔くこの映画のラスト・シーンには、明確な社会メッセージを超えた叙情性が漂っている。

 冒頭でもラストと同じシーンが繰り広げられていることは、14分という短い上映時間にゆえにいやがおうにも思い出させる。それゆえに、叙情性は増す。1巻ものだからといって、「古臭く」「時代遅れ」な作品と思ってはいけない。ここには1巻ものだからこそ醸造される叙情性が漂っている。



(DVD紹介)

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

 バイオグラフ社所属時代のD・W・グリフィスの作品を集めた2枚組DVD。多くが1巻物(約15分)の作品が、全部で22本見ることができる。

注意!・・・「リージョン1」のDVDです。「リージョン1」対応のプレイヤーが必要です。