D・W・グリフィスの作品 1909年(6)

「A TRAP FOR SANTA(罠にかかったサンタクロース)」

 D・W・グリフィス監督作。バイオグラフ社製作。

 貧しい家族。仕事が見つからず酒に逃げる男は、妻と子供たちを置いて家を出て行く。残された妻と子供たちは、妻の叔父の家をもらい移り住む。クリスマス・イヴ。サンタを待ちわびる子供たちは、サンタが窓から入ってきたら分かるように窓に紐をつけて足にくくりつける。そこにやってきたのは、泥棒に入ってきたかつて家を出た父親だった。

 貧困の問題にメロドラマをかけ合わせて作られたドラマが、スムーズに語られた作品。

 カメラは固定で、ストーリーは直線的に展開される。これといってグリフィスの素晴らしさが感じられる作品ではない。それは、この作品が、非常に楽天的ともいえるハッピー・エンドだからかもしれない。同じ年にグリフィスによって作られた「THE REDMAN'S VIEW」(1909)や「CORNER IN WHEAT」(1909)が、ネイティブ・アメリカンや貧しい小麦農家の苦境を、同時代のほかの作品にはない哀愁に満ち溢れたラスト・ショットで表現して見せている。



「EDGAR ALLEN POE」

 アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給 監督・脚本D・W・グリフィス

 エドガー・アラン・ポーが、病に冒された妻の薬代を稼ぐために、書いた小説を出版社に売り込みに行く。

 エドガー・アラン・ポーの生誕100年に合わせて作られたと思われる作品で、「ALLAN」が「ALLEN」に間違っているのは、間に合わせるために急いだためと言われている。

 ストーリーは3つの場面しかない単純なものだが、途中字幕が失われていても十分にストーリーが分かるのは、グリフィスの腕前の確かさによるものだろう。ハーバート・ヨストが、ポーをそっくりに演じているのも特徴。


「THE VIOLIN MAKER OF CREMONA」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督D・W・グリフィス 出演ハーバート・プリア、メアリー・ピックフォード

 イタリアのクレモナに住む2人のヴァイオリン職人は、同じ1人の女性ジャンニーナを愛していた。そんなとき、ヴァイオリンのコンテストが開催されることになり、勝者はジャンニーナと結婚できることが発表される。

 10分強の短編で、ちょっとした小話といった作品である。グリフィスの演出には工夫は感じられず、2人のヴァイオリン職人の心理や行動の理由が読み取りづらかった。ピックフォードは、お人形のような役柄で、真価を感じることはできなかった。


「THE WAY OF MAN」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演フローレンス・ローレンス、メアリー・ピックフォード

 メイベルは優しい家族と恋人に囲まれた幸せな生活を送っている。だがある日、事故からメイベルは左頬に傷を負ってしまう。

 悲劇である。グリフィス自身の脚本によるこの作品は、グリフィスが悲劇に合った人物であることを教えてくれる。

 テクニック的には、固定カメラの長回しといった当時の一般的な演出法だが、部屋の一室を捉えた時間が異なるシーンを編集でつなげるという野心的な試みも行われている。フェイド・アウトやオーバー・ラップといった技法が使われていないため、現在の感覚からすると唐突さを感じさせる編集法のため、最初は何が起こっているのか良く分からなかった。だが、グリフィス編集面で工夫をしようとしていたことの証明ではある。


「THE AWAKENING」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督D・W・グリフィス 脚本・出演メアリー・ピックフォード 出演アーサー・V・ジョンソン

 軍の少佐はいやいやながら結婚する。妻をほったらかしにする少佐だが、やがて妻の優しさに気づく。

 この作品の脚本の名前にメアリー・ピックフォードがある。実際はアイデアを出したという程度のものではないかと思われるが、ピックフォード演じる役柄にスポットライトが当たった作品となっているのはさすがだ。

 ピックフォードは優しくて快活な女性という、この先も演じていき人気を得ていくキャラクター(時には女性ではなく少女だが)を演じて魅力を放っている。グリフィスの演出は、固定カメラと長回しというものだが、ラストでは少しだけ登場人物に寄ってピックフォードを捉えている。ちょっとした演出だが、それだけでピックフォードから感じ取られる魅力は何倍にもなっている。


「THE BROKEN LOCKET」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演フランク・パウエル、メアリー・ピックフォード

 チャンスを求めて西部へ向かう男ジョージは、酒を断つことを妻ルースに約束する。ルースはジョージに、割れて2つになったロケットの片方を渡す。

 教訓劇的な小話だが、グリフィス自らが考案したストーリーは、ルースに失明までさせるというもので少し極端だ。だが、極端な運命や人間の弱さはグリフィス作品の特徴でもあり、説得力を持って極端さを映画に描き出すところにグリフィス作品の魅力の1つがある。この作品は、西部で酒と女に溺れていくジョージと、家で待つルースを交互に描くという、クロス・カッティングの技法を使っているものの、技術的は素朴で極端さに説得力を与えるまでには至っていないように感じられた。


「GETTING EVEN」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演ビリー・クアーク、メアリー・ピックフォード

 舞台は西部。仮面舞踏会に女装して参加したバドは、惚れられた男から求愛される。

 男女の入れ替えによるドタバタ劇は、この後も多く作られていく。当時のグリフィスは、あらゆるジャンルの作品を監督するが、コメディには向いていないことを悟り、マック・セネットに任せるようになったと言われる。確かに、この作品を見るとグリフィスの演出は平板でセネットによるキーストン・コメディのような、カオスの魅力はない。


「THE RENUNCIATION」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演ジェームズ・カークウッド、ハリー・ソルター、メアリー・ピックフォード

 舞台は西部。美しいキティを好きになったジョーとサムの2人は、キティを巡って命を賭けた決闘をする。

 ラストでコメディだと分かるのだが、それまではストーリーも演出も平板で、見どころに欠ける作品だ。グリフィスがコメディには向いていないということを自他共に認めていたのも、この作品を見ると頷ける。


「THE POLITICIANS LOVE STORY」(1909)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本・出演D・W・グリフィス 出演マック・セネット、フローレンス・ローレンス

 自分をカリカチュアした絵を描いた人物を殺そうと、政治家が新聞社に銃を持って乗り込む。

 暴走した政治家に新聞社の人々が怯える前半も面白いが、画家の女性に恋をしてしまった政治家がベンチに座っていると、周りを不自然なほど大勢のカップルが歩いているという地味だがシュールな部分が面白い。


GIBSON GODDESS」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演マリオン・レナード

 浜辺のリゾートにやってきた1人の美しい女性ナネット。男たちは、ナネットの気を引こうと付けて回る。

 付け回す男たちを追い払うために、ナネットが足を見せた理由が良く分からなかったが、どうやら何かを着て足を太く見せることで、男たちを諦めさせようとしたということらしい。


「HESSIAN RENEGADES」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 脚本フランク・E・ウッズ 出演ジェームズ・カークウッド、メアリー・ピックフォード

 アメリカ独立戦争時、ジョージ・ワシントンへのメッセージを届ける任務を遂行中の兵士は、敵方の兵士たちに追い詰められて自分の家族の家へと逃げ込む。

 D・W・グリフィスが多く作った作品のタイプの1つに、歴史物がある。後年、アメリカ独立戦争を背景とした「アメリカ」(1924)という作品をグリフィスは監督しているし、「国民の創生」(1915)や「イントレランス」(1916)といった、グリフィスの代表作とされる作品には歴史物も多い。この作品は、そんなグリフィスが監督した最初期の歴史物と言えるだろう。

 歴史物といっても、それは背景にとどまっている。主眼は、追い詰められた兵士を守ろうとする家族と、敵方の兵士たちとの攻防だ。長編歴史物のエピソードの1つのようだと言えば分かりやすいだろうか。

 15分弱という短い間に、グリフィスとウッズは盛りだくさんの内容を込めている。兵士が衣装箱に隠れていることを観客に最初から伝えることでサスペンスを高めるという工夫、一旦どん底にまで落ちてから這い上がり敵を倒すことによるカタルシスの増大など、作劇上の工夫が伝わってくる。対して演出は平凡で、グリフィスが様々な映画的技巧を磨きあげていくのは、まだまだこれからである。


「LINES OF WHITE ON A SULLEN SEA」(1909) 

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 脚本スタナー・E・V・タイラー 出演リンダ・アーヴィドソン

 港町の娘エミリーは、船乗りのビルと結婚の約束をする。ビルの船旅からの帰りを待つエミリーだったが、ビルは別の港の女性と恋に落ちていた。

 海はグリフィス作品に多く登場するモチーフだ。船旅に出る男、帰りを待つ女という内容の作品は、短編時代のグリフィス作品にいくつか見られる。悲劇に力を発揮したグリフィスによる港のリアルなロケは、効果を上げている。さらに、この作品には以後のグリフィス作品を特徴づける要素の1つを見ることができる。それは、重々しい字幕の効果的な使用だ。時にワンフレーズで、時に長々と書かれる字幕は、映像を分かりやすくするために力を発揮する一方で、映画の雰囲気づくりにも貢献している。

 絵作りの面でも成功しているシーンがある。ラストがそれだ。エミリーの死を知った海の男たちは、みな帽子を取って弔意を表す。この時の、大勢の男たちが同時に帽子を取る時のタイミング、男たちの位置取りは絶妙だ。その自然さと、弔意を表す男たちの多さは、感動を呼ぶ。


「MOUNTAINEER'S HONOR」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 脚本フランク・E・ウッズ 出演メアリー・ピックフォード

 山に住む少女は、谷からやってきた伊達男に恋をするが、振られてしまう。それを知った少女の兄は、伊達男を追いかけて殺してしまう。

 ピックフォードが良い。田舎でそれなりに楽しく暮らしているものの、刺激が足りない毎日に退屈をしている少女を巧みに演じている。グリフィスの演出自体は平凡だが、脚本の構成が優れている。冒頭とラストのシーンは、同じ場所だ。山から見える美しい風景自体は同じだが、いろいろな事件があった後では変わって見える。これもグリフィスが得意とする構成方法で、叙情溢れるものとなっている。


「THE CURTAIN POLE」(1909)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 撮影・脚本ビリー・ビッツァー 脚本・出演マック・セネット

 カーテン・ポールを買ってくるように頼まれたデュポン氏は、ポールで人をひっかけたりといったドタバタを繰り広げる。

 最初のスラップスティック・コメディとも言われるが、追っかけものは草創期の映画においては人気のジャンルで、国を問わず多く作られている。それでも、この作品がスラップスティック・コメディの元祖と言われるのも頷ける。それは、カオスの度合いが違うのだ。カーテン・ポールを小道具に、巻き込まれる人の数や引き起こされる混沌(粉だらけになる人々など)の度合いが非常に高い。さらには、逆回しといった映像トリックまで使われており、映像的にも混沌さを加えている。

 主演は後にキーストン社でコメディの始祖となるマック・セネットで、アイデアも出していると思われる。セネット自体の演技はそれほど面白くないが、それまでと比べて強度を増したスラップスティックは、後のキーストン社作品に通じるものがある。


「A DRUNKARD'S REFORMATION」(1909)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演アーサー・V・ジョンソン、リンダ・アーヴィドソン

 酒飲みのジョンは、酔っ払って妻を虐待してしまう。だが、幼い娘と一緒に見に行った舞台でアルコールの害を知り、改心する。アルコールに対して反対の立場を取っていたグリフィスは、多くの映画でアルコールの害を訴えており、この作品もその1つ。映画内劇を巧みに活用している。


「THE LURE OF THE GOWN」(1909)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演マリオン・レナード、ハリー・ソルター

 綺麗なガウンを着た女に彼氏エンリコを奪われたイザベル。イザベルは復讐のために着飾ってエンリコの前に現れて、敢えて他の男性を誘惑する。

 コメディだが演出も演技も地味な印象を受けた。


「CONFIDENCE」(1909)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演フローレンス・ローレンス、チャールズ・インスリー

 メキシコの酒場でイカサマ賭博をしていたネリーは、改心して看護婦となり、そこで出会った医師と結婚する。だが、過去を知った男に揺すられ、ネリーは医師の金を使って払う。

 スムーズに物語られているものの、これといった見どころに欠けるメロドラマ。


「THE GOLDEN LOUIS」(1909)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演チャールズ・インスリー、アデル・デガード

 雪の降る街で物乞いをする少女は、疲労から階段で眠ってしまう。哀れに思った貴族が金貨を置いていくが、ギャンブラーが金貨を盗んでいってしまう。

 盗んだ金貨を元手にして大儲けしたギャンブラーが、儲けを少女に分けようとするが、なかなか少女が見当たらないシークエンスがある。ここでの2人のすれ違いが、この作品の最大の見どころだろう。それほど工夫されているとは言えないが、この後多くの映画ですれ違いは観客の胸を掻き立てる要素として発展していく。これもまだ洗練された方法ではないが、金貨がクロース・アップで撮られている点にも触れておこう。


「HER FIRST BISCUITS」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演フローレンス・ローレンス、ジョン・R・カンプソン

 ジョーンズ夫人が初めて作ったビスケット。そのビスケットを食べた者たちが、次々と具合が悪くなっていく。

 発想が面白く、次々と具合が悪くなった人々が1つの部屋に集まって苦しむシーンのシュールさも光る。


「THE JONES HAVE AMATEUR THEATRICALS」(1909)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演フローレンス・ローレンス、ジョン・R・カンプソン

 退屈している夫婦の元に演劇団が訪れて一緒に芝居をすることになるが、うまくいかない。

 技術的な工夫はされておらず、ちょっとした小話の域を出ていない。

 主演はフローレンス・ローレンス。当時バイオグラフ・ガールとして人気を得ていたというが、あまり特徴が感じられない。同時期のバイオグラフに出演していた女優なら、マリオン・レナードの方が個性的だ。


「LUCKY JIM」(1909)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督D・W・グリフィス 脚本スタナー・E・V・タイラー 出演マック・セネット、マリオン・レナード

 ジャックは、愛するガートルードがジムと結婚することを知り落ち込む。だが、ジムが急死し、ジャックにチャンスが訪れる。

 ちょっとした小話だが、ジムが死んだことを知って喜ぶジャックの後ろで、悲しむメイドが泣いているシーンに皮肉を込めるなど、ちょっとした工夫が魅力を与えている。


「PIPPA PASSES」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 原作ロバート・ブラウニング 脚本スタナー・E・V・タイラー
 出演ガートルード・ロビンソン、ジョージ・ニコルズ、リンダ・アーヴィドソン、アーサー・V・ジョンソン

 ピッパの歌いながら街を歩く。家族をないがしろにしている男、殺人を犯そうとしている男女などがピッパの唄を聞いて改心する。

 冒頭のシーンが、グリフィスのテクニックへの探究を示すものとして知られている。ほぼ真っ暗な画面が徐々に明るくなっていき、ベッドに寝ているピッパが映し出されるというシーンだ。フェイド・インやフェイド・アウトではなく、照明技法を駆使して朝の訪れを表現している。今では何でもないシーンだが、当時としては画期的だった。

 照明技法が、ただ単一の存在として優れているだけではないことにも触れておきたい。朝の訪れで始まった物語は、夜の訪れで終わる。つまり徐々に明るくなって始まった映画は、徐々に暗くなって終わるのだ。最初と同じ場所で映画が終わることで、きっちりと物語が締まった感覚を与える。これは、多くのグリフィス作品における作劇上の工夫として無視できない。

 ピッパの唄が人々を改心させるという展開も、グリフィスの音へのこだわりを示すものだ。実際グリフィスは、後に「ホーム・スイート・ホーム」(1914)という中編でも音楽をモチーフにしているし、トーキーへの試みも他の監督に先駆けて行っていた。

 ちなみに、この作品はニューヨーク・タイムズにおいて、初めて映画評が掲載された映画である。


「RESURRECTION」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督D・W・グリフィス 原作レフ・トルストイ 脚本フランク・E・ウッズ
 出演アーサー・V・ジョンソン、フローレンス・ローレンス、マリオン・レナード

 軍人ディミトリはメイドとして働くカチューシャに手を出す。数年後、逮捕されたカチューシャとディミトリは再会する。

 トルストイン原作「復活」の映画化。といっても、約11分の作品で、数シーンを抜き出したに過ぎない。女性が落ちぶれてしまった理由や過程が描かれていないのが不自然に感じられたが、原作の内容を知った上で見るのが前提となっているのだろう。当時の有名な文芸作品の映画化作品は、上映時間の制約などから同様の形式がほとんどである。


「THE CORD OF LIFE」(1909)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演チャールズ・インスリー、マリオン・レナード

 ある男が、恨みを晴らすために恨んでいる男の子供をカゴに入れて窓から吊り下げ、窓を開けると落ちるようにする。それをしった、子供の父親は家へと急行する。

 良く考えると、ストーリー上は、窓を開けたら落ちるような仕組みにする理由がない。だが、ストーリー上は理由がなくとも、映画としてはあるのだ。この設定により生まれるものがある。それがサスペンスだ。家へと急行する父親と、家の中にいて今にも窓を開けそうな母親とのカット・バックは、サスペンスを生み出している。グリフィスはサスペンスを生み出す方法を見つけている。サスペンスをストーリーと融合させるまではもう少し後になるが。


「THE CRICKET ON THE HEARTH」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督D・W・グリフィス 原作チャールズ・ディケンズ 脚本フランク・E・ウッズ
 出演オーウェン・ムーア、ヴァイオレット・マースロー、リンダ・アーヴィドソン

 恋する女性を置いて、長い仕事に出たエドワード。仕事先で恋人が別の男との結婚話が持ち上がっていることを知り、急いで戻るのだが・・・。

 ディケンズの原作を元にした作品だ。短編ということもあり、一通りのストーリーが映像化されているように思われるが、上っ面をなぞっただけという印象を受ける。元々は劇作家を目指していたグリフィスは、文芸作品の映像化という点だけに満足しているかのようだ。


「FOOLS OF FATE」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督D・W・グリフィス 脚本フランク・E・ウッズ 出演ジェームズ・カークウッド、マリオン・レナード

 幸せに暮らしていたベンとファニーの夫婦。ある日、ボートで転覆したベンを、エドが助けてくれる。だが、その後エドはベンの妻と知らずにファニーに恋してしまう。

 主要人物は3人のみの三角関係を扱ったメロドラマ。ベンの命をエドが助けてくれたということを知らずに、エドに惚れてしまうファニー。ベンを演じるカークウッド、エドを演じるフランク・パウエル、ファニーを演じるレナードが、舞台的とはいえしっかりとした演技を見せてくれる。特に、レナードの「何よ!あたしはどうなるのさ!」という演技が印象に残る。

 ラスト。悲劇のどん底に落ちたファニーとベンのショットが、急に暗くなって照明の調子も変わる。まるで、舞台のスポットライトのようなのだが、少しやりすぎのような気もする。グリフィスはこうして、技術的な試行錯誤を行っていたのだ。


「WHAT DRINK DID」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演デイヴィッド・マイルス、フローレンス・ローレンス

 妻と2人の子供がいるアルフレッドは、仕事の仲間に誘われるうちに酒浸りになってしまう。

 飲酒に対して反対の立場だったというグリフィスらしい、とことんまでアンチ飲酒の立場に立った作品である。展開は大げさでやりすぎの感がある上、映像技法的にもこれといった見どころも無い。

 当時は、今では考えられないほど飲酒に対する反対運動は強かったという背景を見逃してはならないだろう。禁酒法が制定されるのは1919年、禁酒運動は高まりを見せていたのだ。そういった時代と、グリフィスの酒への立場を印象付ける作品である。


「A STRANGE MEETING」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 脚本スタナー・E・V・タイラー 出演アーサー・V・ジョンソン

 放埓な生活を送っている女性メアリーは、牧師ジョンの助けによって救われていく。

 グリフィス一流の教訓劇であり、グリフィスがいかにキリスト教的な価値観を重視していたかは、バイオグラフ時代の短編を見ると良く分かる。技術的には、神に仕えて生きる決心をしたメアリーと牧師に対して、スポットライトのような照明に切り替わるという独自の演出がされている。他作品にも見受けられる演出で、当時のグリフィスの工夫の一端がうかがえる。


「AT THE ALTAR」(1909)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演ハーバート・ヨスト、マリオン・レナード、チャールズ・インスリー

 愛する女性ミニーの結婚を許せないジョゼッペは、結婚式の祭壇にピストルを仕込み、ミニーを殺害しようとする。

 サスペンスを生み出すため以外には考えられない、ジョゼッペの回りくどい殺害方法の是非は忘れよう。それよりも、グリフィスが映画にサスペンスを持ち込もうとしているという事実の方が重要だ。この作品ではまだ成功しているとは言えないが、ピストルを使った装置の説明のためにクロース・アップで捉えたり、結婚式の様子と結婚式を止めるために走る警官の様子をカット・バックでつないだりといった工夫が随所に見られる。


「THE CARDINAL'S CONSPIRACY」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督D・W・グリフィス 監督・出演フランク・パウエル 出演フローレンス・ローレンス

 舞台は中世。姫に結婚を拒否された男を救うために、枢機卿が計略を考える。

 コメディだが、話が少し複雑なこともあり、あまり面白いとは感じられなかった。技術的には、当時役者の頭から足の先までを撮影することが通例だった中、頭から膝までのショットを導入している。それだけでも、役者の表情が良く分かる。


「THE LITTLE DARLING」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演メアリー・ピックフォード

 「little darling」が汽車でやって来るという電報を受けた人々が、おもちゃを買って到着を待つが、やって来たのは若い女性だった。

 言葉の誤解によるコント。「little darling」を演じているのがピックフォード。


「THE LONELY VILLA」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督D・W・グリフィス 原作アンドレ・ド・ロルド 脚本マック・セネット 出演デイヴィッド・マイルズ

 一家の主人を仕事と称して呼び出す強盗団。妻と幼い娘たちだけの家に、強盗団が入り込む。

 グリフィスがカット・バックをサスペンス醸造のために使い始めた最初期の作品として知られている。だが、作品自体は1908年のフランス・パテ社作品「THE PHYSICIAN OF THE CASTLE」のリメイクである。また、カット・バックもそれほど洗練されて使われているとは言えない。グリフィスがカット・バックの技法を、クロース・アップなどを交えて磨いていくのはこれからである。


「THE SON'S RETURN」(1909)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 原作ギイ・ド・モーパッサン 出演チャールズ・ウェスト、ハーバート・プリア

 経済的な成功を収めて両親の元へ帰って来た息子。両親を驚かせようと正体を隠して両親の前に現れた息子だったが・・・。

 モーパッサン原作小説の映画化。悲劇好きのグリフィスが好みそうな題材で、技術的に特筆すべきところは感じられなかったものの、一連のストーリーとしてよどみなく語られ、しっかりと完結している。



(ビデオ紹介)

Christmas Past [VHS] [Import]

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サイレント期に製作された、クリスマスをテーマにした作品集。今も昔も特別な日であるクリスマスは、もちろん映画草創期から取り上げられやすい題材だった。