フランス ゴーモン社の作品 1909年

「ブ=ブ=ミ(LA BOUS-BOUS-MIE)」

 ゴーモン社製作 監督ルイ・フイヤード

 ブ=ブ=ミというダンスを覚えた女性が、友達を集めて狂乱のダンス・パーティを開く。

 腰をくねらせて踊るダンスを踊りまくる太目の中年女性の面白さが最大の見所。このダンスは非常に扇情的で、若い女性が踊る作品だったら、当時の基準ではかなり際どいものになったのではないかと思われる。大人数が狭い部屋に押し込められてのパーティは、かなりの狂乱の図で、音がないことが悔やまれるくらいだ。


「LE PRINTEMPS」(1909)
 英語題「SPRING」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont 監督ルイ・フイヤード

 春をテーマに、森・池・草原などで古代ギリシャ風の衣装をまとった女性や子供たちが戯れている。

 時に二重写しなどの映像トリックを使い、ファンタジー的な雰囲気の溢れた映像詩的な作品だ。ストーリーは特にない。


「LA FEE DES GREVES」(1909)

 英語題「THE FAIRY OF THE SURF」 製作国フランス
 Gaumont International製作 監督ルイ・フイヤード

 ボートで海に出た貴族は、妖精と出会う。貴族は妖精と結婚するが、妖精に異変が起こる。

 フランスでは1908年に「ギーズ公の暗殺」が作られ、映画に文芸的なストーリーを盛り込むという試みが行われていた。この作品のストーリーは文芸的ではなくファンタジーだが、1つの小話としてきっちりと完結したものとなっている。特に海へと帰ろうとする妖精と、それを追う貴族の2人が海に消えていくシーンは、これまでにも多くの作品で使われてきた映像トリックが、ストーリーと融合していると言えるだろう。

 引きのショットや固定されたカメラなど、舞台を撮影したようなスタイルで作られているものの、屋外ロケは海や城の魅力を捉えている。映画が本格的に物語を語り始めた初期の作品である。


「POSSESSION DE L’ENFANT」(1909)

 英語題「CUSTODY OF THE CHILD」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont製作 監督ルイ・フイヤード

 愛する息子を別れた夫に奪われてしまった母親。だが、子供は父親よりも母親の方が好きで・・・。

 ストーリー的には単純なメロドラマといってしまっていいだろう。舞台を撮影するような固定カメラでの長回しと、技術的に優れているとは言えない。だが、映画が本格的に物語へと向かっていく過程を見ることができるし、テクニックはおいといて、物語きっちりと語られている。


「LES TRANSFIGURATIONS」(1909)

 製作国フランス 英語題「TRANSFIGURATIONS」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エミール・コール

 男たちが謎の穴を覗くと、将来の妻や先祖などを見ることが出来る。

 穴を覗くと人の顔が映り、若くなったり年を取ったり、化け物になったり物体になったりといった様子を、アニメーションで次々に描いてみせてくれる。線が動いて様々なものに変化していくのは、常套手段ではあるが、見ていて飽きない。


「SOYONS DONC SPORTTIFS」(1909)

 製作国フランス 英語題「LET'S BE SPORTY」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エティエンヌ・アルノー、エミール・コール

 馬に乗ったり、自動車に乗ったり、走ったり泳いだり・・・と様々な乗り物やスポーツに挑戦するがうまくいかない。

 人形を使ったストップモーション・アニメ。「LES FRERES BOUTDEBOIS」といった他の作品でも使われた人形が活躍する。いろんなことに挑戦して失敗する姿は愛らしく、動きが滑らかではないにも関わらず、見ていると段々と愛着が湧いてくる。


「JAPAN DE FANTASIE」(1909)

 製作国フランス 英語題「JAPANESE FANTASY」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エミール・コール

 日本の面の口からネズミが出てくる。ネズミが出てくるところからして、登場する面はかなり不気味な印象を抱くものなのだろうと思われる。


「LES JOYEUX MICROBES」(1909)

 製作国フランス 英語題「THE HAPPY MICROBES」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エミール・コール

 顕微鏡を覗くと、様々な菌が義理の母になったり酔っぱらいになったりする。顕微鏡を覗いた後の菌の動きがアニメーションで表現されている。


「MODERNE ECOLE」(1909)

 製作国フランス 英語題「MODERN EDUCATION」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エティエンヌ・アルノー、エミール・コール

 ナポレオン、シェイクスピアゲーテ、ワシントンなど、歴史に名を残した人物たちの真似をした人物たちが次から次へと現れる。

 ストップモーションも、アニメーションも使用していない、エミール・コールとしては珍しい作品。ただ、コスプレをした人が次から次へと登場するだけといってしまえば、それまでの作品である。


「L'EVENTAIL ANIME」(1909)

 製作国フランス 英語題「THE LIVING FAN」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エティエンヌ・アルノー、エミール・コール

 いくつかの時代の、幾人の女性たちが扇を使った様子を描く。

 クレオパトラといった有名人から、無名のパリの女性らが扇を使う様子が、扇形の舞台の上で演じられる様子を撮影されている。巨大な扇に5人の女性が浮かび上がるオープニングは、ジョルジュ・メリエスの作品を思わせるが、それ以降はストップモーションもアニメーションも使用されていない作品のため、エミール・コール特有の世界を期待すると肩透かしを食らう。


「LE CLAIR DE LUNE ESPAGNOL」(1909)

 製作国フランス 英語題「LE CLAIR DE LUNE ESPAGNOL」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エティエンヌ・アルノー、エミール・コール 製作シャルル・パテ

 月へ行った男は、他の星を傷つけてしまったために、地球へと追い返されてしまう。

 リアリティのある酒場から始まる。途中で月に行った後に、月から見える他の星(地球?)に顔があり、アニメションで表情などが表現されている。おそらく、月のアニメーションの部分がコールの担当だったのだろう。ジョルジュ・メリエスも多く製作した夢幻劇(ファンタジー)の一種だが、アニメーションが使われるだけで雰囲気が変わる。人間が月の顔を演じた「月世界旅行」(1902)のキッチュさに、この作品の星は勝っていない。


「LES LOCATAIRES D'A-COTE」(1909)

 製作国フランス 英語題「THE NEXT DOOR NEIGHBORS」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エミール・コール

 隣の夫婦の部屋を覗いた老夫婦は、そこに動く人形や得体のしれない存在がいるのを見て驚く。

 画面を中央で左右に分割し、左側に若い夫婦、右側に老夫婦を映し出している。老夫婦が覗くと、画面左の夫婦の映像がストップモーションで描かれた人形やアニメーションに切り替わるという仕掛けになっている。ストップモーションを使っての入れ替えは、ジョルジュ・メリエスも得意としたところだが、この作品は人形を使ったり、アニメーションを使ったりしている点で、コールらしい作品となっている。


「LES COURONNES」(1909)

 製作国フランス 英語題「CROWNS」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エミール・コール

 様々な時代、様々な場所で王冠が果たした役割を描く。

 映画におけるアニメーションの草分け的存在の1人であるエミール・コールの作品だが、ストップモーションもアニメーションも使用されていない。様々な時や場所で扇が使われた場所を描いた「L'EVENTAIL ANIME」(1909)と似た作品だ。

 最後に登場するのは、浮浪者の男に、輪になったパンを与えるというもの。あまり社会風刺の要素を感じなかったのは、それまでに登場する王冠と比べてあまりにも唐突に登場するからだろうと思われる。


「DELICATE PORCELAINS」(1909)

 製作国フランス 英語題「PORCELAINES TENDRES」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エミール・コール

 キャンドル・スタンドなどの陶で作られたものと人が登場する。 陶で作られたものを擬人化したということだろうが、今ひとつ伝わって来なかった。


「MONSIEUR CLOWN CHEZ LES LILLIPUTIENS」(1909)

 製作国フランス 英語題「MONSIEUR CLOWN AMONG THE LILLIPUTIANS」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エミール・コール

 ピエロと動物が見せる様々な曲芸を、人形を使ったストップモーション・アニメで見せる。人形の動きは滑らかさに欠け、内容も平凡に思えた。


「LES GENERATIONS COMIQUES」(1909)

 製作国フランス 英語題「COMIC MUTATIONS」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エミール・コール

 線が様々な姿に形を変え、最後には上流階級の女性や警官といった人間になる。

 人間の形になった線画が実写の人間になるところが新鮮といえば新鮮。線が次々と形を変えるのは、ただそれだけで見ていて楽しい。


「LES CHAUSSURES MATRIMONIALES」(1909)

 製作国フランス 英語題「MATRIMONIAL SHOES」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エミール・コール

 ホテルで隣同士になった男女。お互いの靴が恋に落ち、男性の靴が女性の靴を追いかけていく。

 実写のシーンに、ストップモーションの技術を使ったシーンを加えて作られた作品。靴同士が恋に落ちる様子を、女性の靴がウィンクしているように見せたり、互いの靴が絡み合わせて見せたりと、無機質な靴が徐々に犬か猫のように見えてくるイマジネーション溢れる作品だ。


「LES LUNETTES FEERIQUES」(1909)

 製作国フランス 英語題「THE ENCHANTED SPECTACLES」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督エミール・コール

 不思議なものが見ることができるメガネを、家族が交代でかけていく。メガネの中には、それぞれの人物の欲望などがアニメで映し出される。アイデアは面白いが、実際に見える映像にもう少し工夫があれば、もっと楽しい作品になったかもしれない。


「AFFAIRES DE COEUR」(1909)

 製作国フランス 英語題「AFFAIRS OF THE HEART」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督・脚本エミール・コール

 ハートが集まって様々な形になったり、人間の男女のようになって恋に落ちたりする。

 恋に落ちたハートの男女が、親の反対にあって、文字通り破れたりと、愛すべき点が多々ある作品だ。


「L'AGENT A LE BRAS LONG」(1909)

 製作国フランス 英語題「THE LONG ARM OF THE LAW」
 監督ロメオ・ボゼッティ
 腕を伸ばすことができる警官が、その特技を活かして泥棒を捕まえる。

 この作品は楽しい。漫画「ワンピース」のルフィのように手を伸ばせる警官は、手を伸ばして川渡しをしてやったりする。その際に、伸びた先の手が動くあたり芸が細かい。泥棒を追って、煙突から手を伸ばして部屋を探ったり(ここではストップモーションが使われている)、逮捕した後は手を伸ばして野次馬を追い払ったりと、伸びる手という材料を見事に料理している。

 マジック・ハンドのようなもので、どうやって撮影されたかのタネを明かせばたいしたことはないかもしれない。だが、技術がきちんと楽しさに奉仕されているのが素晴らしい。