D・W・グリフィスの作品 1910年(1)

「THE UNCHANGING SEA(不変の海)」

 D・W・グリフィス監督作品。バイオグラフ社製作。

 この作品は、サンタモニカでロケ撮影されている。当時、グリフィスはニューヨークのスタジオを中心に映画を撮影していたが、冬になると寒くて日差しも弱くなる東海岸から西海岸へやって来て映画を撮影していたのだ。

 小さな漁村を舞台に、漁に出たまま戻らない夫をひたすら待ち焦がれる妻の物語が展開される。サンタモニカの海岸での撮影は物語にリアリティと雰囲気を与えている。何があろうとも、何年が経過しようともタイトルでもある「変わらない海」が、映画に素晴らしい叙情性を与えている。

 「何年が経過しようとも」と書いたが、長い時間の経過がこの映画の特徴でもある。お腹に娘を宿していた妻は、娘を出産し、結婚して旅立っていっても夫を待ち続ける。お腹に子供を宿して、幼い子供を連れて、大きくなった娘を連れて(海の方を眺めながら夫を待ち続ける妻の後ろで、娘は恋人からの求婚を受け入れる)。15分という短い時間の映画ながら、大河ドラマのような大きく深いドラマが展開されていく。これほどの大きさを感じさせる映画はこれまでのグリフィスの作品にも、同時期の他の作品でもなかった。

 妻がひたすら待つ夫についても描かれている。漂着した先で記憶喪失になっていた夫の姿は、ひたすら待つ妻の様子と平行して描かれる。これは、グリフィスが発展させたクロス・カッティングの効果的な使用の最初期の例と言えるだろう。だが、まだどこかぎこちなく、夫が漂着した先が明確ではないために、妻が待つ漁村とは別の場所であることが最初はわからなかった。

 この映画がサンタモニカでロケ撮影されている利点は、叙情性だけではない。スタジオであれば、舞台を撮影するようにあまり奥行きのないセットで撮られるところを、この作品ではロケの特長を生かして奥行きのある視点で撮影されている。手前にあまり重要ではない人物を配し、奥の海辺で主要人物の動きが見られるなどの工夫がされている。グリフィスの功績はクロス・カッティングやクロース・アップといったわかりやすい技法の活用だけではなく、こういった映画の表現の幅を広げた地味な部分にもあることがわかる。

 この映画のラストは、ある意味ハッピー・エンドだが、そこには10年以上もの時が流れた苦味が走っている。当時の他の作品と比べて非常に複雑でかつ豊かなラストである。また、抑制された演技がラストを大げさにせずに静かな感動をたたえ、しかもそのまま映画は静かに終わる。絶妙なラストと言えるだろう。

 ちなみに、この作品にはメアリー・ピックフォードが大きくなった娘の役を演じている。ピックフォードはこの後もグリフィスの作品に出演していくが、この作品ではそれほど目立った演技を見せてはいない。



(DVD紹介)

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

 バイオグラフ社所属時代のD・W・グリフィスの作品を集めた2枚組DVD。多くが1巻物(約15分)の作品が、全部で22本見ることができる。

注意!・・・「リージョン1」のDVDです。「リージョン1」対応のプレイヤーが必要です。