シャルル・パテ 映画産業の父(5)

 第一次大戦前のシャルル・パテとパテ社の変遷を見ていくと、それは映画産業の歴史となる。映画作品の歴史の中にパテ社の作品はほとんど出てこない。シャルル・パテの主眼は、映画作品ではなく映画産業にあったのだから、それは当然のことなのかもしれない。

 シャルル・パテは商売人として、批判的に語られることが少なくない。しかし、映画はこの後、間違いなく「産業」としての発展とともにあるということを忘れてはならないだろう。産業としての側面を抜きに、映画を語ることはできない。そう考えると、シャルル・パテは産業としての映画の基礎を固めた人物として映画史に欠かすことができない存在のように思われる。

 第一次大戦が勃発し、ヨーロッパ大陸の映画製作は衰退する。巨大な威光を誇っていたパテ社も例に漏れず、衰退を迎える。危機に瀕して、シャルル・パテは映画製作の中止を決断する。このことは、映画作品を中心として映画を見ると、シャルル・パテの映画作品に対する志の低さを示すだけにみえる。しかし、一方でパテのように財政的な面から映画を捉える人物がいなければ、映画がこの後繁栄し得なかったかもしれない。

 ジョルジュ・メリエスは芸術家として映画史に名を残しているが、もし当時映画に関わった人々がみんなメリエスのような芸術家だったとしたら、映画はどうなっていただろう?メリエスが自己の信じる芸術の実現に固執し、財政的に破綻したように、映画産業自体が破綻していたのかもしれない。

 シャルル・パテの功績を忘れてはならない。だが、パテにとっては功績を称えるなどどうでもいいことかもしれない。なぜなら、パテは商売人として映画を製作し、メリエスは芸術家として映画を製作したのである。パテは実利を得て、メリエスは名声を得た。2人がなろうとしたものにふさわしい報酬はすでに得られている。



(映画本紹介)

無声映画芸術への道―フランス映画の行方〈2〉1909‐1914 (世界映画全史)

無声映画芸術への道―フランス映画の行方〈2〉1909‐1914 (世界映画全史)

映画誕生前から1929年前までを12巻にわたって著述された大著。濃密さは他の追随を許さない。