日本 「カチューシャ」と「忠臣蔵」

 第一次大戦勃発による輸入映画の暴騰から、資本金を4分の1にするまで日活の経営は悪化した。これを期に旧横田派が日活の主流派となり、他の派の人々は日活を離れていった。日活は、経費削減から、新作を手控え、短い作品とし、旧作の再上映で興行を間に合わせた。

 だが、日活内では、濫作される作品に飽き足らない人々が出てくる。特に桝本清は自ら脚本を書き、演出をし、映画的場面転換や映画的表情に苦心しており、新劇で松井須磨子主演で大ヒットしたトルストイ原作の「復活」の映画化である「カチューシャ」(1914)を製作し、向島映画はじまって以来の興行成績を上げた。

 「カチューシャ」は、女形の立花貞二郎がカチューシャを演じた。トルストイの原作とはかなり違うが、恋愛についの反封建的な内容で、カチューシャというヒロインを賛美していた。タイトルにカチューシャの唄の歌詞を入れたり、背景や動作に洋劇の珍しさがあったり、興行の際に女の声色弁士にカチューシャ可愛やの流行歌を入れるなどした。ヒットにより、日活は続編「後のカチューシャ」「復活」をストーリーをでっちあげて製作した。特に「復活」は、主人公が日本にやってくるというもので、原作とはまったく関係なかった。

 また、日本キネトフォンでは、松井須磨子が「復活」の背景の前で手拍子を打ちながらカチューシャの唄をうたう作品を製作しヒットしている。

 「カチューシャ」はヒットしたが、日活のボスである横田永之助は快く思わず、新しく撮影する部分は10分の1以下で、あとは旧作のつぎはぎの「忠臣蔵」を完成させる。社内に、制作費をかけた新作ばかりが能ではないと説教し、松之助映画のように秒速8コマで撮影するよう伝達したといわれている。



(映画本紹介)

日本映画発達史 (1) 活動写真時代 (中公文庫)

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日本の映画の歴史を追った大著。日本映画史の一通りの流れを知るにはうってつけ。