2008年秋 おすすめDVDラインナップ

 2008年秋、これまで気軽に見ることが出来なかったサイレント映画が、3本のDVDとなって発売される。ラインナップを見て、思わずテンションが上がってしまったので、普段は単純なDVD紹介はしないのだが、特別に。


 1本目は「国民の創生 グリフィス短編集 クリティカル・エディション」だ。D・W・グリフィス監督の伝説的作品「国民の創生」(1915)自体はビデオにもなっているし、DVDにもなっている。私が取り上げたのは、「国民の創生」のDVD化によってではない。同時に収められているグリフィス監督の短編のためだ。収録されているのは下記の5作品である。

『封印された部屋』(The Sealed Room/1909/12分)
『小麦の買占め』(Corner in Wheat/1909/14分)
『境界州にて』(In the Border States/1910/15分)
『彼の責務』(His Trust/1911/14分)
『息子のために』(For His Son/1912/15分)

 私はアメリカで発売されたDVDでどの作品も見ている。「封印された部屋」は残酷さが、「境界州にて」は登場人物のキャラクターが、「彼の責務」は悲しみに満ちたショットが、「息子のために」はストーリーの重みが、それぞれ魅力的な作品だ。一押しは「小麦の買占め」である。社会派作品でありながら、叙情的でもあるこの作品は、傑作と呼んでもいいと私は思っている。

 これらの作品は、サイレントで15分程度という現在では失われた世界の中で、一つの宇宙を構築している。今の映画にはない魅力を堪能できる作品群だ。映画の勉強として見るのもいいが、それよりも何よりも私が楽しんだ作品である。


 2本目は「レ・ヴァンピール-吸血ギャング団- BOX クリティカル・エディション」である。1910年代から20年代にかけて連続映画と呼ばれるジャンルが存在した。30分弱の作品が、十数回にわたって続いていくという現在のテレビ・シリーズの原型とも言える形式の映画だ。「レ・ヴァンピール」は1915年に作られた作品で、連続映画の名手と言われたルイ・フイヤードが監督をした作品である。

 犯罪集団とそれを追う新聞記者という分かりやすい構図に、荒唐無稽さや愛すべきキャラクターといった魅力が加わった作品だ。当時連続映画といわれた作品は、ビデオで発売されている「ポーリンの危難」(1914)など断片的に見ることができるものはあるが、全エピソードを見られるソフトは日本では発売されていない。その意味でも貴重だ。


 3本目は「HAROLD LLOYD COLLECTION」だ。チャールズ・チャップリンバスター・キートンと並んで、サイレント時代の三大喜劇王と言われるハロルド・ロイドだが、最近では影が薄い。しかし、1920年代において、ロイドはチャップリンキートンよりも観客を集めたコメディアンなのだ。近年影が薄いのには理由がある。それは、ロイドの作品はチャップリンキートンの作品と比べてアクが強くないのだ。ロイドの身体性も高いが、チャップリンキートンには劣る。そこを、キャラクターや、ストーリーや、演出や、セットや小道具などで補って総合的に面白い作品としているのが、ロイドの作品なのだ。その意味で、ロイドの作品は気負ってみてはいけない。気負わなければ、現在にも通じるウェルメイドなコメディの世界がそこにある。

 これまで、ロイドの作品のいくつかはビデオやDVDで発売されている。しかし、これほど多くの作品がソフト化されたのは初めてのことだ。チャップリンキートンとは異なるウェルメイドなロイドの世界を堪能できることだろう。


 どの作品も、「歴史的名作を見る」という気負いを捨てて見て欲しい作品ばかりだ。どの作品も、今でも楽しめる作品であると私は思うが、現代の映画を見るのと同じように、期待のし過ぎはよくない。期待とのギャップのせいで、本来の面白さを感じ取れない可能性がある。といっても、気軽に買える値段のDVDではないし、敢えてサイレント映画を見るという人が期待をしないで見ないわけもない。だから、こういう言い方しか私はできない。私は上に挙げた3つのDVDに収録された作品を見て、どれも楽しかったと。