キーストン社の果たした役割

 キーストン社とは1912年に設立されたコメディ専門の映画製作会社のことである。ボスはマック・セネットという人物だ。セネットはD・W・グリフィスの元で修業をした人物である。

 キーストン社の映画はヒットし、多くのスターを生み出した。ロスコー・アーバックルやメイベル・ノーマンド、そしてチャールズ・チャップリンといったスターが、キーストン社から誕生している。

 キーストン映画はなぜ、ヒットしたのだろうか?それは、キーストン映画が舞台のコメディを見事に映画に移行したからだと思う。キーストン映画といえば、「追っかけ」が挙げられる。誰かと誰かがケンカをして、追いかけっこが始まる。これは、ヴォードヴィルなどでもおなじみのものであり、映画でも前から取り上げられていた。マック・セネットはこの「追っかけ」を、舞台から離れてロケで行った。さらに、グリフィスの元で修業した経験から、編集によって「追っかけ」をつなげていったのだ。「ロケ」と「編集」。この2つによって、舞台コメディは映画のコメディへと置き換えられたのだ。

 もちろん成功の要因はこれだけではない。巨漢のアーバックルや、芸を持ったチャップリンといったキャラクターを得て、観客に馴染みのスターを作ったという点も大きい。間抜けな警官集団であるキーストン・コップや、エロティシズムを漂わせた(当時の基準でだが)水着美人といった、映画を盛り上げるアイデアを組み込んだ点も大きい。だが、何よりも舞台のコメディを映画に置き換えた点の方が、キーストン社の、ひいてはマック・セネットが映画に与えた影響としては大きいのではないだろうか。

 キーストン社の作品を見てみると、同じような設定が多い。たとえば、妻とは別の女性に色目を使って、妻に怒られ、女性の彼氏からも追いかけられるといった作品は、多少の設定の違いはあれど多く使われている。だが、同じような設定を、雨が降ったら水たまりを使ったり、カー・レースがあったら舞台に使ったり、近場にある遊園地を使ったりと、少しだけ舞台を変えて使いまわした。これを安易と言うのは簡単だが、カメラがあればどこでも撮影できるという、舞台にはない映画の武器を駆使したものだということができるだろう。

 キーストン映画を今見て面白いかと言われると、正直言って面白いと思った作品の数は少ない。舞台を映画に置き換えたキーストン社のコメディは、この後にも数多く作られていく、より映画の長所を活かしたコメディと比較すると、面白さの点で劣ると思う。だが、キーストン社が舞台のコメディと、映画ならではのコメディの過渡期に果たした役割を忘れてはならないだろう。