アドルフ・ズーカーによる映画の等級分け

 アドルフ・ズーカーが率いたフェイマス・プレイヤーズは、製作する映画をABCの等級に分け、製作費にも差をつけた。Aは舞台の有名俳優が出演する作品。Bは映画のスターたちが出演する作品。Cはフェイマス・プレイヤーズの大部屋俳優が出演する、最も制作費が安い作品だった。最も人気があったのは、Bの作品であり、作品もBが中心となっていったという。

 映画が開発された当初、カメラは様々なものを撮影したが、その中には当然のように「有名なもの」を撮影したものが多くあった。元々有名なものは、その知名度の高さゆえに、観客を集めやすい。単純な理屈である。

 アドルフ・ズーカーが映画製作会社を設立したときも、同じような戦略を実践した。社名にもなっている通り、ズーカーは有名な舞台劇を映画化した。しかも、有名な舞台俳優を使って。

 この戦略は半分が当たり、半分は外れた。有名な舞台劇は人々の興味を呼ぶことに成功したが、有名な舞台俳優は人気を集めることはできなかった。少なくとも、映画のスターたちと比べると。

 このことは、それまですでに存在するものを借用して製作されていた映画に、映画独自の新たなものを作り出す可能性を示した。新しいメディアが誕生したとき、最初は旧来のメディアからコンテンツを借りてくる。これは、それまでにも、これ以後も行われてきたことだ。そういったメディアとしての試行錯誤の時代を経て、各メディアの特質を生かしたものを生み出していくのだ。

 映画は、有名な人物を映し出すことができるだけではなく、映し出すことで有名な人物を作り出すこともできる。この頃、そんな今では当然のことが、ようやく理解され、実践されるようになったのだ。それは、映画を面白くもする一方で、つまらなくもした。様々な幸せな出来事が起こった一方で、悲惨な出来事も起こった。だが、どれも映画という特質ゆえに起こった出来事である。