成り上がり者たちの王国 ハリウッド

 1920年頃、ハリウッドには多くの映画製作会社があり、多くの映画人が活躍していた。現在のハリウッドの基礎は築かれていた。

 ハリウッドに映画人が集まったのには様々な理由がある。地中海性気候のため晴れの日が多く、撮影のために日光を必要としていた映画撮影に適していたという点はもちろんだが、私はエジソン社を中心とする映画トラストの締め付けから逃れるために、目の届きにくい西海岸に独立系の映画会社が拠点を移したという点に注目したい。

 ハリウッドに集まってきたのは、決して旧来からの大企業でもなく、未来を約束された金持ちたちでもなく、舞台で名声を得た監督・役者でもなく、ベストセラー作家でもなかった。せいぜいが、ニッケルオデオンで小金をためたり、舞台をかじったが高い名声を得たわけでもなかったり、街で一番の美人だったり、小説を書いて出版社に送ってもいい返事がもらえなかったりした人びとであった。

 そんな人びとは西部の辺境の地ハリウッドで、映画を撮影し、それはアメリカ全土・全世界でヒットを飛ばすようになる。ハリウッドは徐々に拓かれていくものの、まだまだ田舎だった。しかし、田舎に集まった、それまで名も知られていなかった人びとは、大金を得ることが可能になり、大きな家を持つことができるようになった。そして、辺境の地ハリウッドは、名も知られぬ人びとの集まりから、誰もが知っている人びとの集まりに変わる。やがてそれは、名の知られた人びとすらを引き寄せる磁力を持つようになる。多くの著名な舞台俳優が、小説家が、劇作家がハリウッドで働くようになる。

 革命的な出来事だ。10年程度の短期間で、ハリウッドは人びとが逃げ込む場所から、人びとを集める場所へと変貌を遂げたのだから。この奇跡の10年をハリウッドで体感した人びとは、社会のはぐれ者から世界の王へと上り詰める気分を味わったことだろう。

 1920年、世界はハリウッドに王と王妃の誕生を見る。ダグラス・フェアバンクスとメアリー・ピックフォードの2人だ。革命によって出来たハリウッドは、2人の王と王女を象徴に、混沌の時代から建設の時代に入る。そして、多くの人びとがこの魅惑の国の仲間入りをしたいと望み、仲間入りできた人びとはさらに強固な魅惑の世界を作り上げる。

 ハリウッドの強さの基盤は、成り上がり者たちによって作られた王国だからではないかとも思える。ハリウッドはその誕生から、革命的で、ドラマティックで、その存在はまるで独立国のようだ。それは、魅惑的でありながら、やはりどこか胡散臭く、野心や傲慢さに満ちている。そして、それが活力となっている。

 ちなみに、日本でハリウッドのことを「聖林」と漢字表記する場合がある。これは、「HOLLY(ヒイラギ)」を「HOLY(聖)」と誤読したためだという。しかし、ヒイラギすらも聖なる存在に変えることが可能なハリウッドにとって、これほどピッタリの誤読はないだろう。そして、誤読すら容認させるハリウッドのイメージの強さが、ここには感じさせる。