日本 松竹キネマ研究所の設立と「路上の霊魂」

 松竹キネマ内に、芸術的な映画製作を目的として作られた松竹キネマ研究所では、1921年に3本の作品を発表している。「路上の霊魂」(脚本・牛原虚彦 監督・村田実)、「山暮るる」(脚本・監督 牛原虚彦)、「君よ知らずや」(脚本・監督 村田実)の3本である。

 「路上の霊魂」は、シュミット=ボンの「街の子」とゴーリキー「夜の宿」によって構成された作品であり、徳川夢声の説明で一般公開された。父の反対を押し切り、音楽家を目指して上京する青年の物語である。西洋作品の翻案調まるだしで、日本の世相風俗人情を感じさせるリアリティが希薄であり、俳優の演技に現実離れした感じもある作品だったが、クロス・カッティングや回想を使用したりと、映画話法に工夫がされていたと言われる。進歩的な映画ファンやジャーナリズムの支持は大きかったという。

 主演の東郷是也とは、明大時代水泳選手として極東オリンピックにも出場した、後の大スター鈴木伝明である。脚本を担当した牛原虚彦も茂原熊彦の名前で、他にも監督の村田実も出演した。ちなみに、「光線」として島津保次郎の名前もあるが、現在の照明のことと思われる。

 「山暮るる」は、カール・ブッセの詩をテーマとした青春もので、まずまずの出来だったと言われる。

 「君よ知らずや」は、歌劇「ミニヨン」の翻案作だったが、興行的に失敗に終わった。