映画評「弥次喜多善光寺詣り」

 日活(京都撮影所)製作 監督辻吉郎、小林弥六 出演 尾上松之助

 弥次さん、喜多さんの2人は信州の善光寺詣りへと向かう。途中、仇討ちの助太刀をしたり、天狗の団扇を手に入れたりと大騒動に巻き込まれる。

 尾上松之助といえば、日本映画最初の大スターで、英雄豪傑を演じたことで知られる。この作品は喜劇であり、尾上松之助のイメージとは異なるコミカルな姿を見ることができる。

 松之助の顔は正直言ってハンサムとはいえないため、庶民の役を演じてもまったく違和感はない。それどころか、こちらの方が合っているように思える。

 私が見たのは活弁なしのサイレントだった。映画は、活弁が入ることが前提で作られていると思われ、映画の中の弥次喜多の2人はよくしゃべっている。ここに弁士たちが工夫を凝らした話芸を当てはめていたのだろうと予想される。

 視覚的なギャグは少なく、賽銭を投げられる痛さを我慢する坊主の姿や、蛇を木の棒の先につけて蛇が苦手な悪い奴をやっつけるなど数えるほどしかない。当時の日本映画が、弁士を前提に作られていたことをうかがい知ることができる。

弥次喜多善光寺詣り [DVD]

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