松竹蒲田 所長野村芳亭の活躍

 蒲田の撮影所長だった野村芳亭は、勝見庸太郎主演の「清水次郎長」(1922)を監督している。舞台的なものとは異なる映画的なスピーディな動きとリアルな剣戟を見せようとし、宣伝でも「新時代劇」の文句が使われたという(時代劇なる呼称がもてはやされるようになったのはこの頃からだという)。上映にあたって、それまでのような蔭台詞や音曲鳴物に代わり、散文的な説明と和洋合奏の編曲を用いる新方式が取り入れられたと言われている。また、清水次郎長は有名な侠客のため、仁侠映画のルーツと位置づけることも可能である。

 野村は他にも、「地獄船」(1922)を監督している。チャールズ・チャップリンの「キッド」(1921)を、伊藤大輔が翻案・脚色した人情喜劇作品である。新派劇団の重鎮で、松竹入社第1回主演作となる井上正夫が主人公の浮浪者を演じ、少年役を子役の小藤田正一が演じている。