映画評「渋川伴五郎」
日活(京都撮影所)製作 監督 築山光吉 出演 尾上松之助
日本映画初期のスーパースターだった尾上松之助主演映画。松之助主演映画で完全な形で残っている作品は「渋川伴五郎」のみとも言われている。
柔の道場の若息子である渋川伴五郎は、霧島へ妖怪退治に出かける。その隙に伴五郎の父親が逆恨みされた相手に殺害され、伴五郎は仇討ちをする。
1時間強の物語の中に、時代劇の立ち回りに、忍術映画の逆回しや着ぐるみといったと特撮を駆使した映像と、松之助映画の魅力と言われるものが詰まっている。
基本的なストーリーがしっかりとしており、伴五郎と父との和解から、「情けは人のためならず」的なドラマ(偶然が重なりすぎているものの)、さらには義のために兄を殺してしまった妹の自害と、かなり練られたストーリーとなっている。元は講談でおなじみの話というだけはある。
松之助が演じる伴五郎のキャラクターは、豪傑であり義に厚いという今後も時代劇で繰り返し登場するキャラクターである。日本の歌舞伎の豪傑物の伝統をしっかりと受け継いでいるところに人気の秘密があるという話を実感として感じることが出来た。
私が見たバージョンは活弁が入っていたために非常にわかりやすかった。だが、もし活弁がなくとも、シーンが移るたびに字幕で状況を説明してくれるため、ストーリーはきちんと追えるのではないかと思われる。ただし、字幕の説明はかなり簡略化されており、活弁での説明が前提として作られてはいる。
松之助映画の中では後期の作品であり、監督も松之助を見出した牧野省三ではないが、「渋川伴五郎」が松之助映画の中で唯一残った作品でよかったのではないかと思わせる好篇だ。
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