日活 溝口健二の監督デビュー

 この年、後世に名を残す映画監督がデビューをしている。溝口健二である。溝口は1920年に日活向島撮影所に入社し、田中栄三の助監督を努めていた。1922年にそれまでの俳優陣の中心だった女形が大量に離脱し混乱していた中、24歳の若さで監督に昇進している。

 溝口のデビュー作は、日活向島撮影所の「愛に甦へる日」(1923)である。平塚でロケが行われた作品で、主人公の窮乏生活がリアルすぎるとして検閲で切られて、つなぎに琵琶を入れたという。また、弁士を無視して、タイトルや会話のスポークン・タイトルを使ったため、弁士を怒らせたとも言われる。

 内容は美しい娘にふられた男が、容姿の劣る姉の愛によって精神的によみがえるという新派劇だった。当時としては女性の美醜をテーマにしている点が新しく、溝口の演出も腕を感じさせるものだったという。