「浮世絵師・紫頭巾」と寿々喜多呂九平の衝撃

 「浮世絵師・紫頭巾」(1923)は、マキノプロダクション製作、総指揮牧野省三、監督金森万象、原作・脚本寿々喜多呂九平で作られた作品である。

 旧劇の古い型から脱出した颯爽とした作品であり、快適なテンポや探偵趣味的といったアメリカの活劇を取り入れたストーリーに加えて写実的な殺陣を盛り込んだ、これまでにない作品であった。

 主人公の報竜太郎は、謎の剣士である。紫頭巾に面を包み、正義の妖刀・村正を振るって、邪悪な物を容赦なく斬るというキャラクターである。当時知らない者はいなかったと言われる「大菩薩峠」の机竜之介がモデルとなっているが、報竜太郎には机のような苦悩はなかった。

 シナリオは佐平次が謎の犯人を追ううちに、報竜太郎の正体がわかっていくというもので、佐平次捕物帖にヒントを得ていたという。「ジゴマ」(1911)に見られるような佐平次と紫頭巾の追いつ追われつの魅力もあった。

 寿々喜多は立ち回りを写実的にやってほしいと注文をつけたという。もともと寿々喜多は、乱暴で、実感的で、型を破っているマキノ映画の立ち回りを気に入っていたのだった。牧野省三は本刀で撮影することとし、殺陣の撮影は凄惨な雰囲気に満ちたと言われている。

 寿々喜多呂九平を発見したのは牧野省三であるが、撮影所へふらりとやって来た寿々喜多は、最初は追い返されたという。だが、脚本を書きたいという寿々喜多の言葉が、脚本を重視する牧野の気をひき、事務所の雑用係から、台本のコピーや助監督を努めるということで入社した。そして、間もなく寿々喜多が書いた脚本が「紫頭巾」だった。

 以後、寿々喜多呂九平はマキノ映画には欠かせない脚本家として、映画史に名を残す活躍を見せていくことになる。牧野省三は、寿々喜多の功績を高く評価し、1本につき1,500円を支払ったといわれている。