阿部豊の活躍 日活現代劇にアメリカニズムを直輸入した男

 日活では1925年春に役者として活躍していたハリウッドから帰国した阿部豊が入社して、デビュー作「母校の為めに」(1925)以降は現代劇の監督として活躍していた。阿部が作った現代劇は、アメリカニズムを直輸入した作品として評判になる。

 梅村蓉子主演でキネマ旬報第三位になった「陸の人魚」(1926)や、「足にさわった女」(1926)で、洗練されたモダニズムとソフィスティケーションを見せつけた。

 「足にさわった女」(1926)は、この年の阿部の代表作で、この年のキネ旬日本映画の第一位に輝いている。急行列車で、文学青年が足の触った女性と話すようになり、女性に誘われて一緒に女性の実家へ行くも、女性は追ってきた刑事に逮捕される。女性は女賊だったという内容の作品だ。当時は男尊女卑の考えから、女性の犯罪は男性よりも陰惨なイメージで語られていた。そんな中、梅村蓉子演じる、妖艶で品のいい女賊というイメージは当時としては画期的だったという。

 「足にさわった女」にはエルンスト・ルビッチの影響があると言われる。猪俣勝人は、「日本映画名作全史」でその点について次のように書いている。「ソフィストケートな題材、軽妙なエロティシズム、快適なスピード、そのどれ一つとってもルビッチ好みであった。いや、阿部豊好みであったといい直そう」

 菊池寛の新聞連載小説を映画化した「陸の人魚」は、初夏の軽井沢を舞台に、ハンサムな青年スポーツマンを巡る美貌の女性2人の三角関係を、軽快なスピードで描いた作品である。