岡田時彦 アメリカニズムを体現した男

 阿部豊監督の「足にさわった女」(1926)に主演したのは、岡田時彦である。また、阿部豊が監督して和と洋の過渡期の時代の風俗描写に成功と言われる、各社競作となった「京子と倭文子」(1926)のにも岡田は主演している(菊池寛の「第二の接吻」が原作だが、「接吻」が検閲で引っかかった)。

 葉山三千子が日本映画初の水着美人として男たちを従えて登場して、アメリカニズムを日本映画に導入しようとしたトーマス栗原の「アマチュア倶楽部」(1920)にも、岡田は出演していた。「アマチュア倶楽部」のシナリオは、西洋崇拝・女性崇拝で知られた谷崎潤一郎で、岡田は谷崎に可愛がられていたという。

 その後岡田は不遇の俳優人生を送っていたが、阿部豊監督作の主役を多く演じて、アメリカニズムを体現できる俳優として開眼する。阿部は自分で演技をして見せるタイプの監督だったが、それを同じようにやれたのは岡田だけだったという。その後、1929年に松竹に移籍した後も、アメリカ映画ファンで知られる小津安二郎の作品にも多く出演していく。

 佐藤忠男は「講座日本映画2」の中で、岡田とアメリカニズムについて次のように書いている。

岡田時彦という一人のスターの足跡をたどると、初期日本映画におけるアメリカン・モダニズム派とも言うべき監督たちの系譜がうかびあがるが、その監督たちが岡田時彦によって実現しようとしたのは、堂々とした女に対してやさしくふるまう男のマナーである。それを、歌舞伎や新派の二枚目たちのように、なよなよと悲しげに演じるのではなく、さっそうとスマートに演じるのである」

無声映画の完成 〜講座日本映画 (2)

無声映画の完成 〜講座日本映画 (2)