松竹 五所平之助が本領を発揮

 1925年に映画監督としてデビューした五所平之助が、「帰らぬ笹笛」(1926)あたりから本領を発揮し始めた。「帰らぬ笹笛」は五所が原作を担当し、美しい田園を舞台に、夢多き少年たちが登場した作品だったという。

 1926年秋には予備召集を受けて、短い空白期間を経た後、「彼女」(1926)を監督。検閲で削除を受けながらも、出世作となった。谷崎潤一郎の小説「赤い屋根」からヒントを得た作品で、薄幸な生涯を送った実母を偲びながら、真の愛情に生きようとする愛人の悩みを描いている。

 また、後に五所とコンビを組んでいく、脚本家の伏見晁がデビューしている。伏見は、兄が松竹でカメラマンをしていた関係もあり、蒲田の脚本部に入社していたのだった。デビュー作の「鉄腕」(1926)は、当時蒲田に入社したボクシングの日本チャンピオン荻野貞行が主演した作品である。当時、ボクシングはかっこいいスポーツとして認識されていたのだった。