日活 阿部豊=岡田時彦の現代劇での活躍

 日活の現代劇の分野では、阿部豊岡田時彦のコンビが活躍した。

 「彼をめぐる五人の女」(1927)は田中栄三が脚本を担当した作品で、若いドン・ファン風の医者を巡る5人の女性の物語だった。ユーモアをたたえた風刺劇で、ショットの構成する映画のリズムやテンポがアメリカ的な作品だったという。評価も高く、キネマ旬報ベスト・テンの2位に選ばれている。

 主演した岡田時彦の人気は高まり、1927年の「映画時代」誌での人気投票では阪東妻三郎を退けて1位に輝いている。また岡田は、ふたりだけのときには大胆な、シットリとした聡明な美人が好みで、結婚しているにも関わらず、そういう女性を追い求めていたと言われる。「彼をめぐる五人の女」の役は岡田自身の姿とダブっているという指摘もある。

 阿部=岡田のコンビ作は他にも、イプセンの原作を映画的な演出で仕上げた「人形の家」(1927)がある。

 岡田時彦は阿部だけではなく、溝口健二にも好んで器用された。

 溝口は、「慈悲心鳥」(1927)で岡田を脇役で起用している。原作の菊池寛と話し合った上で、改作・脚色したオールスター・キャストの作品で、キネマ旬報ベスト・テン5位に選ばれている。1人の女が苦労の末に2人の子供を育て上げるまでを描いた作品で、原光代と中野英治らが出演した。

 溝口は他にも小品「皇恩」(1927)を監督している。軍事劇だが、前半は工場を背景に、心美しき人々を生き生きと描いているという。